音楽に合わせるとは?
最後列に下げられた潤平とるおう。
下手な奴がおかれる場所だ。
ふたりとも巻き返しをはかる。
るおうは潤平に挑発され、やる気満々だ。
人が変わったような集中力を見せ
教師に絶賛される。
あっという間に最前列へカムバック。
るおうのスタイルが素晴らしい。
「ズレる」わけじゃない?
いっぽうの潤平はまったくダメ。
踊りと音がずれた、と同じ注意をされる。
バレエを始めて3ヶ月の初心者だから
分からないステップも多くて迷うのではないか?
動きが分からないから遅れるのだろう
と教師は言うが、それはちがう。
潤平は見てすぐにできるタイプだ。
それなのに周りの生徒と動きがズレる。
カウントをあわせるだけ?
潤平は解決方法に気づいた。
あまりに単純でアホらしい。
音楽を無視して、カウントで踊ればいい。
よく教師が言う「1,2,3,4」というやつだ。
ひたすらカウントにあわせて動けばO.K.がでた。
正確なクリック音
気づいたきっかけは、るおうの指摘だ。
るおうは他の生徒の動きをチェックしている。
みんな自分より下手。
教師の目で生徒をみている。
潤平も、千鶴のレッスンを思い出しながら
動きの細部を検討しはじめる。
千鶴は指を鳴らしてカウントを取りながら指示を飛ばしていた。
パチッ
パチッ
記憶の中の指クリックが、目の前の景色と重なる。
これに合わせて動いていたのだ。
お前はまだその段階じゃない
潤平は不満だ。
そんな単純なことだったのか!
せっかくの生ピアノで、ゴキゲンな音なのに!
「気持ちよくなれねー」
カウントにだけ合わせるのはつまらん。
それでも修正し、後半のクラスを終えた。
終了後ピアノの、おばあちゃんが話しかけてくる。
おばあちゃんは楽しそうだ。
いいものを見せてくれると言う。
潤平を別クラスのレッスン見学に連れて行く。
ぜんぜん違う。
圧倒的な迫力。
ムダなく美しく動きがそろっていて
このままで群舞のようだ。
これこそ「バレエ」というやつ。