ダンスをやめられない千夏
千夏は戸惑っている。
たたらとダンスをしてしまったせいで
気持ちがぐらぐらと定まらない。
競技ダンスはすっぱりやめたはずだったのに。
教室にもお別れのあいさつをした。
高校に入ったら、もう普通の
女子高生として楽しく過ごすつもりだった。
それなのにうかうかとスタジオに行ってしまった。
あこがれの仙石・本郷ペアにサインをもらい
ぎゅっと抱きしめてもらった。
めっちゃうれしかった。
ダンスグッズを処分する手がなかなか進まない。
テレビで流れてくるBGMがサンバに聞こえる。
学校に行けば、後ろの席から
たたらが話しかけてくる。
ダンス仲間が欲しいのだ。
千夏はダンスが好きだ。
だけど好きだけではどうにもならない
もちゃもちゃがあってもう辞めると決めた。
やっと決断したことなのに、
ぐいぐい突っ込んでくるたたらがうっとおしい。
たたらの焦り
たたらには時間がない。
清春・しずくペアと闘いたいのだ。
今年じゅうにグランプリに出たい。
年5回あるグランプリのうち
すでに3回は終了している。
清春たちは優勝。ガジュたちはファイナル入り。
どちらも実績を積み重ねていく。
グランプリは今年あと2回ある。
次回の静岡大会まで残り2ヶ月。
カップルすら組めていない。
そして自分のダンスは何かが決定的に足りない。
たたらは必死なのだ。
なりふり構わず千夏に声をかける。
グループレッスンに参加して
おばちゃんと踊ってみる。
リードできるようになってカップルを組みたい。
千夏の秘密
たたらは疲れてフロアに座り込む。
リードすることがこたえる。
千夏にできることが自分にはできない。
こんな自分と組んでくるパートナーなど見つかるのか?
千夏に負けている自分がはがゆい。
「千夏ちゃんは多分これをやってたんじゃないかな」
たまきさんがヒントを教えてくれた。
千夏は女子どうしの組で踊っていたんじゃないか。
中学生までの階級ではよく
女どうしでカップルを組むことがある。
社交ダンスを踊る男が足りないからだ。
千夏はずっと男役をやっていたようだ。
そのせいでリードが上手い。
そしてフォローが苦手だ。
たたらとは正反対である。
ふたりがうまくかみ合わなかったのはそのせいだ。
千夏があまりに男性役に特化していたせいで
立場を逆転して踊ったら異様にしっくりきた。
千夏のほうが「支配者」である。
たたらがバイト開始
グループレッスンが終わると
たたらは急いで教室をでた。
喫茶店でバイトをはじめたのだ
競技会にむけて金が要る。
シューズ代、レッスン代、衣装代、
大会の参加費、交通費、ホテル代。
ちょっと信じられないくらいの出費が予想される。
何十万単位の資金をゲットしておかないと・・・。
まずはお金から準備する。
たたらはできることからやっていく。
えらいやつだ。
喫茶店ではよく働く。
バイト先での奇跡
バイトをきっかけに
たたらはカップルを組むことができた!
なにがきっかけになるか分からないもんだ。
喫茶店オーナーのお嬢さんが
千夏の元パートナーだったのだ。
千夏が男役で、お嬢さんが女役。
お嬢さんの「あきらさん」は女らしい。
千夏より小柄で胸が大きい。
あきらは千夏を挑発しまくる。
新しく男性とカップルを組んでダンスを続けている。
うまくいっているのだ。
「そうだ9月の仙台グランプリに応援に来てよ」
マウンティングしまくりだ。
千夏はキレた。
あきらにたいして積年の不満がある。
自分はうまかったのに男役ばかりやらされた。
「グランプリにはたたらと出るから」
「出場してやる」
「あんたの組を押し退けて」
復讐してやる。
千夏はたたらと組んで競技会に出ることに決めた。