うまくなるために一番たいせつなことは?
環境か?才能か?その前にもっと根本的なことがある。
「ダンスをやらせてください。僕は変わらなきゃ」
(竹内友『ボールルームへようこそ)
多々良(たたら)は、しずくに冷たくあしらわれ、
逃げるようにダンス教室から帰った。
しずくはダンスのために
海外留学をするつもりだ。
なんとなく教室に紛れ混んだ自分とはちがう。
仙石(せんごく)も競技会の王者だ。
競技会では、圧倒的な存在感で誰よりも目をひく。
すべての参加者たちが「俺をみろ」と自己主張する中で
ひときわ輝いている。
たたらとはちがう。
変わりたいと願う切実な気持ちがたたらにうまれる。
たたらの生活はさえない。
友だちがいない。
クラスメートから、掃除当番をおしつけられる。
不良たちにつかわれて、殴られる。
自分はダメなやつだ、
もうこんなのはいやだと心の底から思う。
中学生らしく純粋に必死で変わりたいと願う。
この気持ちがあるから、たたらはダンス教室にとびこんだ。
そして仙石に教えられたとおりBOXをひたすらくりかえす。
地道な実践が自分をかえる。
たたらはそのまま朝まで練習を続けた。
尋常でない。
体は疲れるし、そもそも
どう動いていいか分からない。
仙石を思い出しながら、
ひたすら試行錯誤をくりかえす。
教室のフロアが汗でぬるぬるになる。
貸し靴が一晩でこわれ靴底がはげてしまった。
足の皮がはがれて痛い。
その先でようやく
なんとなくいい感覚がみえてくる。
変わりたいと思う気持ちが
たたらを動かしたのだ。
変わりたい気持ちを伝えて、
たたらは環境を手に入れた。
ハイレベルな手本、
そして練習できる空間。
それから美少女が手を組んで、
いっしょに踊ってくれた。
あつい青春の1シーンだ。
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