揃っている踊り
１日目のクラスを終えたあと、ピアノの妻村さんは
潤平をスペシャル・スチューデントのクラスへ連れて行った。
見せたい物がある。
「気持ちいいだけで踊っているあなたとは正反対の踊り」だ。
全員の動きがぴったりと合っていて、迫力。
かっこいい。
揃えようとしているのではなく、
レッスンを続けていくうちに同じになっていくのだという。
揃っていくには理由がある。
セットエクササイズ方式
このクラスでは同じアンシェヌマンを１ヶ月繰り返すのだ。
アンシェヌマンとは基本動作の組み合わせのこと。
１つのパターンをひたすら反復させて
体を正確に動かすことに意識を集中させる。
基礎を徹底的に身体に染み込ませる。
同時に、同じ動きをさまざまな音楽に対応させる。
的確な動きができるまで何度もやり直しさせて、
その結果「揃って見える」。
無駄のない理想の動きの終着点が同じだっただけ。
これがバレエだ。
妻村さんからのヒント
対照的な踊りを見せられた潤平は衝撃を受けた。
こんなバレエから自分はほど遠い。
そもそもの基礎がないからカウントだけで踊らされるのだ。
いまから積み上げるべきものが多すぎる。
どうすればいい？
妻村さんはヒントをくれた。
「あなたは自分の踊りにも、
バレエに対する姿勢も、無自覚すぎる」
基礎の積み重ねのまえに、振り返るべきことがある。らしい。
踊りにはすべてが滲みでる。
翌朝るおうと一緒にクラスに向かう潤平。
るおうとの会話の中で、
妻村さんの問いへの解答がわかった。
洋舞祭りでのアドリブだ。
自分の気分を優先してしまった。
るおうはバレエの理想を誠実に体現しようとしてたのに、
潤平は観客にウケたい一心で暴走した。
るおうならなんとかしてくれる。
責任を共演者に放り投げて
自分の気持ちよさをとったのだ。
綾子の言葉がよみがえる。
「あなた方の演じられた即興的な見せ物や、
それに付随する態度も、
クラシックバレエとは異なる性質のものです」
「あなたはバレエに向かれていない」
いま意味がわかった。
自分は無知で傲慢だった。
はずかしい。
潤平はあらたな視点を獲得した。