るおう退場
サマークラスの6日目。
男子たちはひとりずつ踊り綾子からの講評をもらう。
るおうの番が来るが、るおうは動かない。
音楽が鳴ってもそのままだ。
綾子先生は容赦のない言葉をなげる。
「演技しないのなら下がってね」
「邪魔よ」
るおうはレッスン室を出て行ってしまった。
後を追って引き留める潤平にるおうは叩きつける。
・こんな所にいても学ぶことは何もない
・バレエなんて大嫌いだ、やらされていただけだ。
るおうは言葉が不自由だ。
あふれる想いがあるくせに、膨大な感情が渦巻いているくせに、
それを口に出して伝えることができない。
るおうにはるおうの事情がたくさんある。
潤平には言葉の外にるおうの感情をうけとめる。
るおうの表情や動き、声に情報がつまっている。
一緒に練習し、舞台で共演し、公演を見に行った。
毎朝むかえに行って、ふたりでレッスンに乱入した。
だから、るおうがどんな奴かも知っている。
潤平はるおうを止めることができなかった。
ーなんだか色んな事情がありそうだから
人間はみんな言葉が不自由だ。
声になってやり取りできるものはごくわずか。
このあたりはマンガとかダンスとかの得意分野だ。
潤平は教室にもどった。
自分はレッスンを受け、それから都とデートの約束をする。
るおうはるおう、それとこれとは別だ。
奨学金の誘い。
潤平は執務室に呼び出され
綾子からスペシャル・スチューデントを提示される。
潤平は素直に嬉しい。
この6日間で変わったので、伸びしろに期待をこめて、と言うことらしい。
るおうとは対照的だ。
るおうは技術が高いし舞台での求心力は奇跡的だ。
だがプロになれない、という。
メンタルが弱いし、人と関われない、一般常識がない。
生川綾子は潤平を選ぶ。
綾子先生の出した条件はふたつ。
1.生川バレエ団へ必ず入団する。
2.五代バレエスタジオを辞める。
この約束をしなければ潤平は援助を受けられない。
綾子の野望
さらに綾子は野望を語る。
生川バレエ団を、海外から憧れるくらいの地位に押し上げたい。
そのためにバレエ史に残るようなスターダンサーを育てたい。
潤平がその中心になってもらいたい。
いっしょに歴史を作ろうぜ、という申し出だ。
魅力的な申し出だ。
これは綾子のワナなのか?
潤平をだますためのうそなのか?
それとも真剣にこんな野望を語るのか?