ジャンプ一つで空気を変える
雨のなか走ってきた潤平は、
そのまま脱衣して踊りはじめた。
綾子をむりやり教室に連れ戻し
ヴァリエーション発表会を再会である。
さいわい妻村さんはピアノを弾いてくれた。
潤平が踊りはじめると
教室の視線が集まり雰囲気が静まる。
「ジャンプ一つで空気を変えよった・・・」
潤平の成果
潤平はひとの心を波立たせる踊りをする。
まだまだ未完成ながら、
見るものをハッとさせる。
海咲のツッコミが、現時点での
長所短所を浮き彫りにしていく。
地面に触ってる時間、少なくね?
←海咲:王子らしからぬ浮かれっぷりやね。
喜びが彼から広がってきますね。
←海咲:演技が過剰なんやないか?
のびやかで見てて気持ちいいな。
←海咲:のびやかすぎて立ち位置通りすぎとるわ。
等々、海咲のコメントで潤平を評価できる。
客観的にみて「しょせん初心者や」
しかし潤平は、正しい王子のイメージを
確実に描いて再現しようとしている。
技術さえ獲得すれば、
素晴らしい王子を見せてくれるはず。
そんな期待感をあおるダンサーだ。
潤平の意識
潤平は踊りに集中している。
しかし身体の動かし方だけを考えるのではない。
動きに、自らの感情を封じ込めている。
都を見たときのあのドキドキした気持ちと
教え込まれた精確な動作が引っ張り合っている。
相反するものを一つにまとめる。
「感情の爆ぜるのを皮膚一枚で食い止める」
まさにクラシック・バレエである。
転倒
しかし派手に転んだ。
びしょ濡れのまま踊るからだ。
潤平は動かない。
頭のなかで、転倒の衝撃と
都にふられた衝撃がリンクしている。
悪魔に連れ去られるお姫様と、
るおうについて行く都が重なる。
無力感と喪失感。
転んでしまったこと。自分の技術不足。
失恋さえも演技のネタだ。
潤平は起き上がって、踊りを再開した。
転倒からの即興。
てきとうバレエである。
クラシックの発表会のさなかに
とんでもないことを始めた。
才能ってほんと残酷だ。
潤平の踊りは周囲を圧倒した。
転倒からの即興を挟むことで
激しい起伏が生まれ、
短いヴァリエーションに物語性をうみだした。
ルール違反だけどおもしろい。
潤平はすばらし素質を持っている。
センス
身体能力
勘のよさ
そして豊かな感情からくる演技力である。
しかし綾子から潤平は
どんな評価を受けるのだろうか?
生川はダンスール・ノーブル
=気品ある王子役を求めている。
即興をはさむなど、
正反対のダンサーではないか。