潤平、降板
「やっぱ潤平なしでいいやー」
潤平はあっさりと降ろされてしまった。
大ショックだ。
いきなり降ろされたことも。
「センスねーな」と言われたことも。
潤平は空き教室に駆け込んだ。
バック転の練習をする。
二回転を余裕で確実に跳びたい。
そして復帰したい。
綾子からの宣告
練習は綾子に阻止された。
バレエ以外の練習をきびしく禁じられる。
めずらしく感情的な言い方である。
やみくもなトレーニングは上達を遠ざける。
よけいな筋肉がつくと修復がむずかしい。
潤平の長所は恵まれた身体条件だ。
バレエを踊るのに理想的な体格をしている。
足が本当に美しい。
マンガみたいだ。
唯一の長所は守らなければならない。
奨学金だって、そのためのものだ。
綾子から、はっきりと降板を宣告された。
プロの舞台をなめている。
「あなたは舞台に立つ資格がない」と。
疲労骨折
自分はセンスあると思っていた。
バレエ歴が浅いのをセンスで
カバーしていくつもりだったのに、
まわりは潤平の「センス」など
かけらも認めていなかった。
センスがなければただの初心者だ。
あせる。
今井先生からは「病院いって休め」と指示された。
足が疲労骨折している可能性がある。
あるあるだ。
まちがった練習をしすぎた。
かたよった練習だった。
潤平に足りなかったものは何か?
潤平は落ち込んでいる。
が、今できることをする。
はじめて『GAISHA』初演の録画を通しで見た。
もっとはやく見ておけばよかった。
『GEISHA』は素晴らしかった。
ようやく潤平は勘違いに気づく。
自分が目立つことばかりを考えて
周りを無視していた。
みんなが作っている、
舞台の流れ・空気をぶち壊していた。
潤平は『GAISHA』の世界観からはずれた
ノイズになっていたのだ。
自分はどんなニンジャだ?
年齢は?
生い立ちは?
どんな感情で襲っている?
ほんの数秒の出演でも、ニンジャの人生を生きろ。
と今井先生は指示する。
舞台に出るなら当然の配慮だ。
復活なるか?
いよいよ『GEISHA』公演初日である。
おなじバレエスクールの女子たちが
花束を持って観に来ている。
ニンジャ役は3人。
4人目の潤平が出るかどうかは、分からない。
そして会場に都が来ている!ようだ。
潤平は舞台にあがれるのか?
都と再会できるのか?