東京公演初日
生川バレエ団のオリジナル演目
『GEISHA』いよいよ開演である。
オペラ『蝶々夫人』に大胆なアレンジを加えた
フランス人振付家による作品とのことだが、
ストーリーは、まったく異なる。
むしろ歌舞伎の演目のような筋書きだ。
衣装や演出も歌舞伎ふうな雰囲気が強い。
東京バレエ団の『ザ・カブキ』のほうが近い。
ともかく生川バレエ団のオリジナルの演目だ。
このさき海外でバレエ団が売り出すときの
キラーコンテンツになる。
潤平は一員として参加することができた!
経緯は不明だがとにかく舞台にのっている。
舞台の高揚
潤平は高揚している。
通し練習の時から「ヤバイヤバイ」と繰り返す。
オーケストラの生音にのって登場しバック転する。
それだけだ。
客席は潤平が登場するのを待ち構えている。
自分でチケットを買って
わざわざ観に来てくれた観客だ。
洋舞祭りとは段違いの期待をもって観に来ている。
プロの公演である。
「うっわ・・・このぐらぐらするやつ・・・ヤバい」
「気ィ許したらこの舞台(宇宙)に溶けて取り込まれる」
「気持ちよすぎだろ・・・」
「正直ぶっ飛ぶ、帰ってこれなくなる!!」
潤平は高揚感を全身で感じている。
舞台でしか味わえない特別な快感だ。
カーテンコールでは感激のあまり
もう大泣きしてしまった。
だって観客が拍手してくれるのだ。
銀也が潤平の手を引いて前に出してくれた。
観客も団員も笑ってしまうほど
潤平は泣いている。
銀也の横顔。
客席には綾子と今井先生。
千鶴は生川に潤平を送り出し、
潤平は生川に受け入れてもらった。
・・・感謝・・・
終演後
潤平は花束をひとつもらった。
「忍者の村尾くん」あての白いバラが
舞台に置いてあったのだ。
都だ!
潤平は走って追いかけるが都の姿はない。
お客さんに捕まって話したり
写真を撮ったりして
なかなか都を見つけられない。
いちいち会話に付き合う
人なつっこいたちである。
けっきょく都に会えなかった。
夏の夜、潤平は公園にしゃがみこむ。
バラの花束を握って。
都とはまだつながっている。