ワケありの同級生
「東京ダンスグランプリ」に行った、たたらは
高校のクラスメートに出会う。
印象最悪。ダンスをディスってきた女子だ。
なぜここにいるのか分からん。
思いがけない再会に向こうもビビっている。
「学校で話しかけたりしたら承知しないから」
言い捨てて、さっさと立ち去ってしまった。
ダンスのことは学校の誰にも
知られたくないということか。
ワケありだ。
仙石のレッスンは「見せること」
最終予選を控えて、仙石は待機中だ。
ふんふん鼻歌を歌いながら
シューズの底にブラシをかけている。
滑り止めのため靴底を毛羽立てているのだ。
余裕と自信がある。
「よく見とけ」
仙石はたたらにそう言った。
よい踊りを見せることがレッスンだ。
言葉でたくさん説明するよりも
動作一つを見せるほうが正確に伝わる。
ふたりはそうやってつながってきた。
「また構ってくれるなら見逃すものか」
「これはレッスンだ」
たたらは仙石の動きに注意を集中する。
目で見て覚えるのは得意だ。
ワルツの途中でギアチェンジ
仙石は、基本に忠実な踊りをはじめる。
大きなスイングと決して崩れない上半身。
股関節の柔軟さと体幹の強さがあるからこそ
可能になる動きだ。
頭がぶれない。
訓練された体が理想的なダンスを見せる。
「背筋鍛えなきゃ・・・」
たたらは地力の違いを痛感する。
こうやって端正に踊った場合、
大柄なほうが見栄えがする。
フロア上で仙石は圧倒的に目立っている。
しかし真骨頂はこれからなのだ。
仙石は「ギアチェンジ」する。
異様な踊りだ。
背中の一枚板がゆがんで見える。
コネクションがズレるほど背筋をそらす。
ホールドが外れそうなほど首を外にそらす。
「水脈のうねりのように滑らかに」
「フロアの上を滑るように」
完璧なのに、車酔いしたみたいに気持ち悪い。
こんな踊り知らない。
もともと体の大きい仙石が
異様な動きのせいでさらに大きく見えた。
たたらはあっけにとられる。
パートナー本郷とのケンカ
踊り終えた仙石は、いきなり平手打ちされる。
相方が怒っているのだ。
「何さっきの」
「急に踊りのノリ変えないでよ!」
事前の打ち合わせなしで
「ギアチェンジ」したことを怒っているのだ。
仙石も叩きかえす。
もう無茶苦茶の殴り合いだ。
気を遣わずに言い合える関係なのだ。
パートナーの本郷千鶴は
サバサバした性格で付き合いやすい。
初対面のたたらを抱きしめてキスしてくれた。
「本郷先生も頑張る!!」
仙石・本郷ペアはファイナルへ勝ち抜き
当然のように優勝した。
仙石と帰宅
大会後、たたらと仙石は同じ電車で帰る。
「お前これからどうするんだよ?」
「また独り身に戻っちまった訳だが?」
まこと組むわけにはいかない。
たたらはそう思っている。
実力差がありすぎて足を引っぱるだけだ。
「とりあえず踊りまくれ」
仙石の助言はシンプルだ。
「上手くなった暁には」
「モテるぞ!」
重要なポイントだ。
仙石は電車の中でも特別だ。
大柄なだけでなく、
まっすぐ伸びた背筋、
自信に満ちた眼差しで
オーラにあふれている。
仙石のオーラは、ひとつひとつ訓練された
体の動きの集大成だ。
フロアの外でも異彩を放っている。
たたらは、それを見て吸収したい。
仙石とわかれた後の夜道で
ダンスの動きを復習する。