「話があるの」って
夏姫の後ろで月が輝いている。
潤平はあわてた。
告白されるんじゃないか。
パドドゥの練習はいい感じになってきたけど
自分はそんなつもりはない。
でも夏姫はめっちゃかわいい。
やばい。
夏姫のオーディション辞退宣言
もちろん夏姫は告白などしない。
潤平の妄想暴走だった。
バレエの話があるのだ。
ようするに・・・
夏姫はYAGP本選を選ぶ。
『眠り』オーディションに勝っても
生川公演への出場は辞退する。
潤平もそうした方がいい。
パートナーの夏姫が辞退するから
潤平もどうせ公演には出られない。
相方からの宣言に、潤平はうろたえる。
オーディションを戦う前から
相方にやる気なし宣言をされたのだ。
コンクールで潤平の可能性もひろがる。
夏姫の話では、潤平の海外留学は有望だ。
YAGP日本予選で潤平は好評だったという。
「すぐいいスポンサーが見つかりますよ」
スポンサーだと?
海外だと有望なダンサーを援助する団体や個人がいる。
YAGPニューヨーク本選で素晴らしい踊りをすれば
思いがけないチャンスをつかめるかもしれない。
とんでもないお金持ちが援助してくれるかも。
バレエ学校からよい条件を出されるかも。
世界の見たこともないようなすごいダンサーと出会えるかも。
るおうもロシアに行ったし。
ダンサーは時間がないのだ。
現役生命には限界がある。
いつか舞台で踊れなくなる日がかならず来る。
日本にこもっていたら一生見れないものがある。
「バレエの広さを、その世界を体感するために」
海外に飛び出すのもアリじゃないか?
ぶれない海咲
潤平はドイツのバレエ団がやる『眠り』を観に行った。
めちゃくちゃ面白い。
斬新な衣装、ネオン管を使った照明。
夏姫の言葉がよみがえってくる。
世界は広い。
たしかにとんでもない奴らに会えるかもしれない。
海咲はあくまで生川ねらいだという。
目標は、生川のプリンシパルになって
世界に通用する日本産バレエをみせる。
生川バレエ団は可能性に満ちている。
綾子が執念深くひとを集め、環境を整えた。
これから世界でも有数のバレエ団になるはずだ。
いまは創生期なのだ。
海外にこんな団はあるか?
迷う潤平に、海咲が宣言する。
「今度は負けへんで」
潤平は資質と才能に恵まれているが
現時点では海咲が実力で勝る。
夏姫も可能性はとんでもなく大きいが
しょせん13歳の子ども。
18歳の響の完成度には及ばない。
海咲は自信ありだ。
コンクールと公演にふたまたをかける潤平に勝つ。
「俺たちは生川に入団したいと熱望しとる」
「懸ける意気込みが違う」
海咲のほうが男らしい。
かっこいいぜ。
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