千夏をナンパ
たたらは前の席の女子が気になる。
おかしいとずっと思っていたが
この子は絶対ダンサーだ。
背筋が異様にまっすぐで
顔が小さく、首が長い。
所作に気品がある。
相当な訓練を受けている。
たたらは試合に出たいのだ。
清春たちが待っている。
早く勝ち抜いて同じステージに登りたい。
そのためにまずパートナーがいる。
「ちーちゃんがいるじゃん!」
スタジオでストレッチしながら本郷が提案する。
「身長のバランスも悪くなさそうだ」
「あの子絶対上手いと思う!」
「バレエとかもやってるくちだよな」
千夏は見るからによい素材なのだ。
「あの子はどうせ固定の相手がいるんだろうから」
仙石からのアドバイスだ。
「略奪してこいよ!」
というわけで放課後の告白タイムである。
千夏はあっさり了承した。
成功の第一歩だ。
パートナーと初めてのカップル練
初めてのカップル練は、たたらの完敗だった。
うまくいかない。
千夏のツッコミは容赦ない。
反応も険悪だ。
たたらのリードが、千夏に伝わらない。
見かねた仙石が間に割って入る。
「千夏、たたらをリードしろ」
ポジションチェンジの提案だ。
男女の役割を交代して
たたらが女役、千夏が男役をやる。
仙石は何かを察したのだ。
たたらは本郷の指導で
はじめて女子のポーズをとる。
腹筋を引き上げて、首を左上に向ける。
上半身をしならせて、ヒザをゆるめる。
つらい。
動けない。
「思ったより女性のポイズって
バランス取りづらくてキツイぞ・・・」
対する千夏は異常にうまい。
一目で分かる姿勢の美しさ。
姿勢がさまになっている。
「ついて来て」
千夏のリードは受け取りやすい。
たたらが、人のアクションを
キャッチするのが上手い事もあるが
千夏からの信号は明確でわかりやすい。
たたらが知らないはずの
未知の足形も踊れてしまった。
指示の仕方がいいせいだ。
「支配されてる」感覚。
たたらは千夏の思うままに動かされている。
「今まで僕がやってきたことは何だったんだ」
たたらはショックを受けた。
自分はこんなリードできてなかった。
完敗である。
リードとはこういうものなのか。
たたらはあ然として千夏を見つめる。
競技会出場は、まだ遠い。