帝王杉木の本心「僕はあなたが欲しい」
鈴木とアキのコミュニケーションを強めたい。
杉木先生がやらせたのは、ふたりの気持ちを通じさせるための練習。
片手だけのコネクションで目をつむって踊ることだ。
しかし冗談みたいな展開がおこった。
はじめ鈴木は杉木の指示どおり前後左右にすすんだ。
目をつむったまま超能力のようにリーダーの心を感知する。
ところが途中からひたすら前進のみをくりかえす。
杉木の「本心」が鈴木を呼び寄せている？
もっとこっちへ来いと。
あせりながらもふたりは壁際へ移動していく。
鈴木はついに鏡の前へ杉木を押し付けるかたちになった。
「なあ俺にどうして欲しいわけ？」
真剣な問いに杉木先生は本心を答えてしまった。
「僕はあなたが欲しい」
鏡の前で告白「もしや僕ら両想いなんですか？」
ラテン鈴木は深くため息をつく。
「やべ」
「やーっべー！！」
顔が赤くなる。
「嬉し」
感情のジェットコースターだ。
喜んだり、あせったりいそがしい。
我にかえって冷静になったり、もう一度杉木のことばを噛み締めてよろこんだり。
杉木先生は冷静だ。
外見はむしろぶすっとして怒っているようにすら見える。
「あなた男性と恋愛なんてありえない。そうですよね」
「ゲイだなんて嘘をついて」
杉木のほうが鈴木に片思いをしていると勘違いしているのだ。
「だって手から好意が伝われば勘違いするでしょう？」
そういうことじゃないのだ。
ラテン鈴木も帝王杉木に好意を持っている。
しかも一線をこえた抑えがたい想いだ。
「俺がどんだけ迷ったか、葛藤したかそこまで感じ取れよ」
鏡の前でふたりの距離がさらに縮まった。
「もしや僕ら両想いなんですか？」
そのままキスだ。
チャンピオン・アルとの出会い
鈴木はランチを食べながら葛藤する。
男と付き合ったことがない。
キスしたものの、その先へは進めなかった。
杉木とどうやって付き合っていけばいいのかわからない。
杉木のことを大事にしてやりたいとは思う。
どうやって？
ダンスで杉木を超えることだ。
杉木は踊るために生きているような男だ。
子どもの頃からダンスのエリート教育を受けた。
競技ダンスで勝つためだけに生きている。
すべてを犠牲にして強烈な意思で自分を駆り立てている。
自分はチャンピオンになれる。
杉木自身がそう信じてひたすらに前進する。
ラテン鈴木にできる「大事にする」方法は、「ダンスで杉木を潰す」ことだ。
圧倒的な力で杉木を破り、屈服させる。
そうすれば杉木のダンスへの想いを成仏させてやれる。
「ダメだ！！足りてねぇ！！」
「今の俺じゃ全然力不足だ！！」
杉木は世界大会２位。
１位とはいつも僅差だ。
チャンピオンになることをけしてあきらめない「超絶帝王」だ。
どうすればいい？
悩む鈴木の前に絶好のチャンスが現れる。
ラテンの世界チャンピオン、アルがカフェに入ってきたのだ。
パートナーとふたりでランチを食べにきた。
鈴木はふたりに声をかける。
テーブルに同席し会話の糸口をつかもうとする。
そっけない態度のチャンピオンにびくともしない。
話をつないで、いきなり宣言する。
「俺は今度のジャパンオープン、マジで踊る」
「甘くみてるとアンタ負けるよ」
勝利予告だ。
帝王杉木を完敗させる。
そのためにまず目の前にいるラテン・チャンピオンをたおす。
ラテンで１位をとり、１０ダンスで頂点に君臨する。
杉木を完膚なきまでにたたきのめす。
ダンス界の神になるのだ。