夏姫の追い込み
明日はコンテンポラリー審査。
潤平のすすめるメモ書きを夏姫は採用する。
自分自身を知り、コンテに生かす。
夕食を入手してくれた寿たちをあとに、
夏姫はひとり部屋にこもる。
いまさら自己分析などしてなんとかなるのか?
ノートをひろげてペンを持つが夏姫は何も書けない。
潤平の説明はシンプルだった。
「思いつくことを
くっだらないのからはずかしいのまで
箇条書きにしていったんだ」
だが同じことが夏姫にはできない。
何かが思考を押さえつけている。
「カセをはずさなくちゃ」
夏姫は自分の部屋を出た。
「私の、欲しい物」は潤平?
夏姫はどこへ行くのか?
潤平たちの部屋をノックする。
とつぜんの来室に驚く潤平を、
夏姫は思い切りハグする。
(夏姫は足が超長い)
おもわぬ展開に潤平は凍りつく。
夏姫は必死。
潤平の首に顔を押し付けている。
腕に力をいれて潤平の体をしめつける。
かと思うと潤平をはなして廊下を立ち去っていった。
あまりのことに潤平は対応できない。
感情をかきたてられまくる。
「しっ心臓が」
「いろいろ血流が」
「おちつけっ・・・」
「静まれっ、情報入ってくんなっ」
ここはアメリカ。
潤平は開放的に対応してみた。
「YES!」
さけんで夏姫を抱きしめようとしたが
空振りで取り残される。
夏姫はあとも見ず廊下を遠ざかる。
ルームキーが作動し、潤平は廊下にロックアウトされる。
翻弄されまくり。
アホみたいなあつかいだ。
本番前夜に振り付け変更
夏姫が訪れたのは中村先生の部屋だ。
コンテの振り付けを変えたい。
夏姫は明確に主張する。
日本のリヒャルト先生へ電話して3社面談がはじまる。
夏姫のコンテはリヒャルト先生が振りつけた。
コンテが苦手な夏姫に配慮して
クラシックよりの振り付けにしてある。
つまり、形ができればある程度成立する振り付け。
「自分自身」などなくてもいい。
夏姫は形をまねるのが得意だ。
日本予選では森真鶴のオーロラを真似た。
オーディションのときは響のオーロラを真似た。
正反対の解釈だがどちらも正しい。
説得力がある。
夏姫はいま自分で踊りたい。
コンテで自分を掘り下げ、動きを開放したい。
これができればクラシックでも自分の解釈を深められる。
コンテとクラシックはつながっている。
リヒャルト先生の協力
リヒャルト先生は夏姫の話をよく聞いてくれた。
夏姫はただしく成長している。
まねるためにも美意識が必要なのだ。
そしていまさらながら次の段階へ進んだ。
自らを省みて、ダンスに生かす。
リヒャルト先生は夏姫の成長を喜んでいる。
「さあ、チャレンジしよう夏姫」
「何が踊りたい?」
夏姫が踊りたいのは「恋」だ。
月明かりの下でしか生きられない月の精が青年の気を引こうとする。
気にならないフリをしたり
かわいこぶったり
スカートを揺らしたり抱きしめられた力強さを
混ざってゆく温度やにおいを
想像する
「潤平、大好き!」
感情が踊りにあふれだす。
メモ作戦は効果をあげた。
書きだした言葉が直接ヒントになったわけではない。
しかし書いていくことで、自分の考え方のワクに気づくことができた。
夏姫は枠の外にあるものをひきよせたのだ。