バレエの聖地ニューヨーク
潤平たちはリンカーンセンターへきた。
明日のYAGP本選会場である。
ディヴィッド・H・コーク・シアター。
潤平、夏姫、寿の3人はぼーっとする。
伝説のダンサーたちが踊った伝説の場所だ。
聖地。
ふつうの人にとっては、なんか立派なホールぐらいの感覚だろう。
しかし潤平たちにとっては、もはや神聖な場所だ。
寿(ことぶき)がスマホで写真をとる。
あすはここで踊る。
感無量だ。
ニュヨーク・シティ・バレエ団の本拠地で踊る。
向かい側はメトロポリタン・オペラハウス。
ABT(アメリカン・バレエ・シアター)の本拠地。
数々のスターダンサーたちが踊った劇場。
寿が発作のように語り始める。
熱い。
ダンサー名をならべる。
それだけで胸が熱くなる。
バレエ好きにはたまらない場所でだ。
潤平が考えるのはブランコのことだ。
ブランコもABTだった。
ここで踊っていたはず。
オルガ先生に再会
劇場のまえでオルガ先生に再会した。
潤平たちの予選突破を祝福してくれている。
「決戦も楽しみにしてるわ」
潤平たちを見ながらなにか考えているようだ。
練習場所として自分のスクールを使うよう提案してくれた。
中村先生が、前のめりで承諾する。
「オルガ先生の・・・アメリカの個人のお教室」
「見学してみたいじゃないか!」
中村先生は純粋なファンである。
少年のような気持ちで、オルガ先生にあこがれている。
「次、いつそんなチャンスがくるのかわからないしね」
そのとおりだ。
チャンスはいつくるかわからない。
潤平も気づく。
潤平は行動を開始する。
口実を作って一人で動き出した。
ニューヨーク観光に出かける一行と分かれる。
「Where is ブランコ!?」
まずオルガ先生にたずねた。
地下鉄でブランコに会いに行く
オルガ先生が教えてくれたうどん屋へ潤平が向かう。
地下鉄のなかでいろいろ考えてしまう。
ブランコにあってどうなる?
いまブランコに会う必要などない。
潤平のバレエ人生はこれからだ。
あすYAGPの決戦。
帰国して生川からワガノワへ留学。
ゆくゆく生川バレエ団で踊る。
舞台にのる。
岩井先生のオリジナルも振り付けてもらう。
海外のバレエ団によばれて夏姫と踊る。
「未来の展望は明るいじゃん!」
「チャレンジングじゃん!!」
「文句ないわ!!!」
それでも潤平はブランコに会いたい。
ブルックリンで再会
地下鉄をおりてうどん屋へ向かう。
まだしまっていた。
潤平はまわりをみまわして興奮する。
ブランコが住む町に立っている。
それだけで潤平にとっては聖地だ。
映画のなかに入り込んだような気分になる。
ブルックリンというとアートな感じもするし。
「も一回だけ、会いたいだけなんだ・・・」
ブランコはそんなことも知らず店番中だ。
オルガ先生からメールが来た。
だがジュンペイに会いたくない。
金がない。
ウドンをおごることもできない。
お構いなしに潤平は店に飛び込んできた。
「ブランコッ・・・」
「運命だよ・・・ブランコ・・・!!!」
ホットドッグをおごってくれる
ブランコはホットドッグをおごってくれた。
やすいやつ。
川の横で二人並んでホットドッグをたべる。
潤平は明るい。
あこがれのダンサーと一緒で興奮している。
ブランコの横顔がかっこいい。
「俺はもう踊れないぜ」
潤平はケータイで写真をとる。
「あなたは踊らなくても踊っている」
「あなたはそこにいるだけで特別なダンサーだ」
ブランコの気持ちなど関係なく潤平はうれしい。
音楽が聴こえる。
ちかくでカホンをたたいている人がいる。
そしてバンドネオンとバイオリンも。
タンゴでも演奏しているのか。
潤平はおどる。
ひたすらに明るい。
「ヘイ!ジュンペイ」
ブランコが近づいていく。
「一度しか言わない、よく聞け」