チェーンソーでも切り落とせないもの
隣の家から伸びてきた枝をマリンちゃんはゆるせない。
チェーンソーをもちだして切断した。
切り落とすのは簡単。
細いちいさな先っちょだ。
それでもマリンちゃんの心が落ち着くことはない。
マリンちゃんは知っている。
生物の振る舞いを止めることは不可能だ。
地面の下には木の根が伸びている。
枝が塀を越えてくる以上に、
地下では根が境界を超えて入り込んでいる。
植物には敷地境界など関係ない。
自由にエネルギーのおもむくまま
マリンちゃんの世界へ侵入する。
地中には手が出せない。
マリンちゃんは樹木の気ままな越境を憎んでいる。
あらかじめきめられたルールに、樹木は従わない。
木の根を掘り出して処分するか。
そんなことは不可能だ。
膨大すぎる。
木の根はひろがって、
対処しきれないほどの空間を支配している。
風紀委員長の殺気
昇降口のまえで、ムラサキが風紀委員長に近づく。
風紀委員長は背中に手を組んで仁王立ち。
すさまじい表情でムラサキをむかえる。
二人の間の距離は1メートル。
近い。
風紀委員長が振りかぶってムラサキに襲いかかる。
いや、襲いかかるイメージのみが送られる。
可能性の交換。
ムラサキは落ち着いている。
「これで動じぬとは大したものだ」
委員長にムラサキは話し始めた。
「わかったから」「打たないって」
むしろ風紀委員長は打てないのだ。
植物のような自由さが、委員長にはない。
27話へ 29話へ