目隠しを外した壁ちゃん
踊り終えた壁ちゃんは目隠しをはずす。
カボくんのダンスがウケている気配に以上を感じた。
壁ちゃんは信じられないものを目の前に発見する。
カボくんは壁ちゃんと同じ動きをしている。
しかも壁ちゃんよりイージーなやり方で
壁ちゃんよりリズムを感じさせる動きを見せる。
めっちゃ挑発的。
観客が盛り上がる。
壁ちゃんをおちょくっているみたいだ。
壁ちゃんはあくまで理性的。
大量のかっこいい動きを体の中にストックしておいて、
曲にあわせてダンスのフレーズを組み合わせていく。
音楽もたくさん知っている。
流れを予測し、知的に組み立てていくタイプだ。
カボくんの発見
壁ちゃんのターンを見て、カボくんは発見した。
知識も教養も、積み上げたものの量では壁ちゃんにかなう訳がない。
それでも壁ちゃんをこえる領域がある。
全体の構成よりももっと細かくて感覚的なこと。
今なっている音をもっとよく聴くことだ。
音そのものから動きが生まれるようにすること。
カボくんは壁ちゃんと同じ動きをしながら
より「粘り」と「うねり」を体現してみせる。
カボくんはヒップホップ的な黒いリズムをゲットしつつある。
かつて日本人ダンサー、トニーティー(七類誠一郎)が提唱した『脈拍リズム』(パルスリズム)を
カボくんみずから見つけはじめているのだ。
カボくんの脱皮
脈拍リズム(パルスリズム)を体得するうえでカボくんは有利な立場にある。
大柄で手足が長い。
おかげで同じ動きをしても体の「しなり」を体感しやすい。
そのうえカボくんにはある種の執念がある。
ずっと押さえつけられてきた欲求不満が溜まっている。
もともとカボくんはむっちゃ「良い人」で気を使うタイプだ。
そのうえ吃音のせいで自分の気持ちを言葉にするのに時間がかかる。
壁ちゃんがカボくんを解放してくれた。
ダンスでは気を使わなくていい。
遠慮せずに戦える。
「壁谷さんはいい人だ」
カボくんは闘争心を解き放つ。
壁ちゃんの目の前で圧倒的な存在感を見せつける。
壁ちゃんは歯抜けだった
「・・・でけえ・・・」
カボくんに壁ちゃんは気圧される。
同時に壁ちゃんはブチギレた。
口を開いて前歯をはずした。
差し歯だったのだ。
ダンスの練習で怪我をしまくり
前歯も折ってしまった。
顔面から地面に落ちたのだろうか。
ふだんは口を閉じてマスクで隠していたのだ。
黒マスクには理由があった。
「ブレイキンに怪我はつきもの」
「それを超えた先に得るスキルにこそ喜びがある」
可愛い顔をしているのに壁ちゃんは武闘派だった。
前歯をみずから引き抜いて壁ちゃんは自分の限界を極限までひきあげる。
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