潤平は都を抱きしめる。
大好きだから。
都は優しい。
人を押しのけて上にあがっていくようなことができない。
成功するための向上心が欠けている
と見られることもあるが
逆に野心がないからこそ
できる踊りがある。
「俺さっ、
都が何の気なしに踊ってるのが、
あー・・・バレエ好きなんだなあって。
あ、愛に溢れててさ。
・・・すごく、好きなんだ」
献身的な気持ちから出る、純粋な踊り。
それが都の長所だ。
泥沼の引っ張り合いになりかねない競争社会で貴重な資質だ。
「俺といればいいじゃん」と
潤平はちらっと思ってしまう。
るおうはロシアに行くから二股かければよくね?
自分は黒島と付き合ってるけどそれでもよくね?
チャラい。
いやチャラいんだけど誠実だ。
潤平は自分の気持ちに対して、
自分の欲望に対して正直なだけだ。
アーティストの誠実さはこういうもの。
でも都はそういうのを許さないだろう。
潤平は分かっている。
だから「いつかまた舞台の上で付き合おうぜっ」と別れる。
生きているかぎり、バレエを続ける限り潤平と都は仲間である。
ワガノワ・プリ結果発表
るおうが1位だ。
当然。
実力が評価された。
すばらしさをロシアで認められた。
日本のバレエ界は騒然とする。
潤平も興奮。
るおうはやっぱすげえ。
中村先生の部屋にいって何度も問いかけた。
「ワガノワ・プリってスゲェの!?」
「俺のライバルってスゲぇの!?」
「ヤベェなっ」
気もそぞろで、朝方までレッスンを受けた。
・・・負けられない。
るおうが1位なら,自分も1位を取らなければ。
ライバルだからな。