正しく、エモいバレエ
るおうが踊ると、背景が森になる。
ヨーロッパの深い森。
白い百合の花が十字架の前におちる。
ジゼルの墓の前で精霊に囲まれている。
太い幹から葉っぱが茂って闇が深くなる。
呪いをかけられた王子がひとり踊っている。
るおうの身振りひとつで
風景が変わってしまうのだ。
観客の胸を締め付けてくる。
るおうはハイテクニックを見せている。
ジャンプの高さ。
姿勢の美しさ。
動きの緩急。
音楽とのマッチング。
どこまでも正しいクラシカルな踊りのままで
演技過多でもないのに
心に強いインパクトを与える。
思わず見入ってしまう。
るおうの達した高み
正確さ優先か?派手さ優先か?
審査員受け優先か?観客優先か?
そんな疑問をはるかに飛び越えた演技。
見たものたちは、思わず立ち上がり、
終わると満場の拍手が起こる。
潤平よりずっと高いレベルに、るおうはいる。
るおうの怒り
素晴らしいものをみせつけた後
るおうは、ステージから
まっすぐに潤平へ向かってくる。
衣装もとらず。怒り狂っている。
「下手くそ!」
潤平の手首をつかんで声を上げる。
いやしかし、どうすればよかったんだ?
潤平はうまくなった。
相当な修練をつんで技術を身につけた。
千鶴が驚くほどの進歩。
やり方はまちがっていない、はず。
正しく努力を重ねた。
その練習の途中で、
何か大事なものを失ったとでも言うのか?
るおうがすごいのはわかる。
いまの潤平がまったく及ばないところにいる。
それなのにライバルだと思っていたやつから
ののしられている。
レベルが違いすぎる
るおうに追いつくため、
どんな課題を見つけるべきか?
まったく見当もつかない。