バレエのために捨てる?
悪い夢を見て潤平は起きた。
レッスンの動画を撮られ、
さらし者にされるところで目が覚めた。
友人関係を危うくすることが相当な重圧だ。
そして朝食中に、
母親から意外な話をされる。
「父ちゃんがやってたから」で
将来決まんないからねっ、と。
別に格闘技大好きなわけじゃないだろう。
好きなようにしたら、ということか?
どうやら母は、父親の後を追うことを
期待していた訳ではないらしい。
ジークンドーとか映画とかに進まなくてもいい。
進んでもいい。
選択肢はたくさんある。
放課後いつものように部室にいくと兵ちゃんがいる。
スマホから音を流しながら、
エアドラムを叩いてノリノリだ。
とっさに潤平はエアベースを弾く。
ふたりは趣味が合うのだ。
好きな音楽の話をして盛り上がる。
兵ちゃんは、めんどくさいやつだけど好きだ。
「バンド組もうぜ」と提案され、心が揺れる。
その手もあったか。
バンドやったらモテるぜ。
あんたバレエダンサーになる人間でしょ?
レッスン後、千鶴から
バレエ公演のチケットを渡された。
勉強のため。
潤平は王子役で発表会に出演する。
DVDも見ておくように。
指示は矢継ぎ早で容赦ない。
流れを作られている。
部活を辞めて、レッスンに来るよう言われ
潤平はかっとする。
「だから俺にはっ、
部活も仲間もジークンドーも
家庭も・・・あってだな・・・」
怒りながらも、自分が舞台で
照明を浴びるイメージを見てしまう。
バレエにどうしようもなく引き寄せられている。
潤平は狼狽する。
全部捨てなければならない、だと?
たくさんある選択肢も、
いま持っているものも捨てるのか?
目の前のバレエ教師は
そうやって生きてきたらしい。
厳しい要求だ。