謎の少年
真っ暗なスタジオに見えたのは、
ひとりレッスンする男子だった。
目が合うとすぐに部屋を出てしまった。
外に取り残された潤平は、
警察官に呼び止められる。
不審者扱いである。
ひとの家をのぞいたので、間違ってはいない。
言い訳のしようもない。
千鶴先生に説明してもらい
尋問からようやく解放。
まるで不審者のような
要領を得ない説明をして逃げ帰る。
「なんですか、思春期が･･･
暴れ出して、そして･･･」
好きな娘の母親である。
バツが悪い。
そんなことより気になるのが、先ほどの踊りだ。
あれは「悪魔」ロットバルト。
登校拒否少年のるおうだ。
動きの軌道が記憶に焼き付いて消えない。
羞恥心を乗り越えろ
翌日レッスンにいくと、
潤平は都から呼びかけられる。
「潤平！」
何だと！
ふたりの距離を縮めるため、
下の名前で呼び合ってみろ。
そういう千鶴からの提案だ。
距離感の近さに照れまくる潤平。
「都」と名前で呼ぶことができない。
かわいい男子である。
都をサポートすることもできない。
必死で王子をイメージして支えようとするが、
体に触れるだけで緊張しまくるのだ。
指先まで力が入って動きが堅くなり中断する。
「そいつより、どう見ても、僕が王子ですよね？」
そこにるおうが入ってきた。
都は大喜びだ。
一緒にレッスンし、るおうが手本を見せることになる。
るおうの潤平への視線は冷たい。
なんのためらいもなく手本を見せる。
スムーズで、姿勢がいい。
そして一連の動きのあとに肩を抱き寄せる。
バレエの流れで。
空気が変わった。
都の顔が赤い。
るおうの作った雰囲気に
都のほうが照れている。
潤平は取り残された。
同い年の男子なのに、
何のためらいもなくこんなことができてしまう。
見せつけられた。
目の前で好きな子をさらわれた気分。
るおうは圧倒的にうまい。
「そいつより、
どう見ても、僕が王子ですよね？」
オーラがある。