踊るの禁止
本格的にバレエに取り組むことになった潤平にルールが課された。
「勝手に踊るの禁止、バーレッスンのみ」だ。
もともと身体能力が異常に高い。
振り付けも自己流でなんとなく踊れてしまう。
ところが千鶴の指摘したとおりに動こうとすると
まったくできない。
一回まわることもできない。
ショックである。
バレエは、基本の動きが決められていて
それ以外は「バレエ」ではない、という。
必要なのは基礎
潤平には基礎がない。
自己流の体のくせを矯正し
正しい動きをたたき込まないと「バレエ」は踊れない。
小さい頃から基礎をたたき込まれた都やるおうに
今から追いつかなければならない。
現に、自己流で無理に踊ったせいでヒザが痛いことを
千鶴に見抜かれている。
そしてシンプルに指導される。
現状を認めてすべきことをしなさい、と。
「照れ」と「強情」は成長の敵
こうしてひたすらバーレッスンをすることになる。
長時間の基礎練習だ。
幼児クラスの時間から、小学生クラス、中学生クラスと
千鶴がレッスンするかたわら、
潤平はスタジオの隅でバーを握る。
一日が終わった後は、ひとり居残りで自主練だ。
基礎が身になれば自由に踊れる。らしい。
だが退屈。
くたくたで動けない。
自由な状態を手に入れるため
えんえんと積み重ねが続く。
潤平は繰り返しレッスンする、
夜おそくまで、そして朝早くから、
とちゅうで寝落ちしないよう音楽を鳴らしながら。
シューズはあっという間に履きつぶしてしまった。
圧倒的な行動力が潤平の長所だ。
生まれつきの体格だけでは成功しない。
勝利する人間は、勝つべくして勝つ。
本番がうまくいってほしいと
こっちも願ってしまう。