潤平は毎日、
早朝から練習している。
家を出るのが朝4時前だ。
もともと睡眠時間が
少なくて済むたちらしい。
うらやましい。
しかし潤平のレッスンに
付き合うほうも過酷なである。
千鶴はやつれている。
ついに・・・
やっとパ・ド・ドゥの練習だ!
バーレッスン以外のことができる!
舞台上での動きをやれる!
楽しい。
もう振り付けは覚えている。
音楽が鳴るとすぐに、潤平は演技に入り込んでいる。
というより、演技なのか素の気持ちなのか区別がなくなっている。
都への気持ちがまっすぐにあふれて、
まっすぐに見つめ、手を取れる。
ふたりで踊れることにわくわくが止まらない。
これからどんなことが始まるんだろう?
バレエをはじめて世界が変わっていく。
期待感がそのまま演技になる。
それは千鶴が意図したとおりの王子である。
「好奇心旺盛で無邪気で自信があって、
他人に嫌われるなんて知らない、14歳」
以前とは大違いだ。
まえは照れてしまい
目線も合わせられなかった。
手も握れない。
バレエの型に入ることで、
素直に気持ちを乗せられるようになったのか?
演技は良い。
あとは技術だ。
潤平の動きはしょせん「付け焼き刃」
バレエとしてはまだまだ。
必要なのはバーレッスンである。
引き続きレッスン。
果てしなく続く。
スタジオでの待ち伏せ
るおうは潤平を嫌っている。
あんな下手といっしょに舞台に出たくない。
バレエの技術はすでに身につけていて
千鶴のレッスンも受けたくない。
だから深夜に、ひとりで練習である。
そこに潤平がはいってきた。
スタジオで待ち伏せていた。
振りをあわせてくれと言ってくる。
なんでこんな羽目になるのか?
ばかばかしい。
こんな下手な王子と
絡むのなど耐えられない。
潤平の踊りはへたなのに、
なにか人を動かすようなオーラがある。
そんな気がする。
それがいっそう忌々しい。
「他人に嫌われるなんて知らない14歳」は
無遠慮に話しかけてくる。
デリカシーなく他人の領域に踏み込んでくる。
「お前が踊ったせいで俺の人生・・・変えちまった」
「ありがと、なっ」
それからライバル宣言である。
「お前が引きこもってる間に俺、追い抜かすよ?」
潤平は素直で前向き。
そしてあまりに無謀な発言だ。
バレエを始めたばかりで、
演技はとにかく、動き自体がおぼつかない。
10年以上、基礎を積み重ねたるおうと大きな差がある。
不可能に立ち向かうのが青春だ。
天才はあり得ないことをやってしまう。
正反対なふたりが、バレエの世界で向かい合う。