心境の変化がレッスンを変える
潤平は変わった。
心境の変化である。
ピアニスト妻村さんの言葉をヒントに
バレエへの向き合い方を見直したのだ。
バレエについて無知だった。
小さい頃からやっているやつらと差を
感性で跳び越えられるとうぬぼれていた。
自分は天才だから、なんとかなる。
そんな傲慢な思い上がりがあった。
生川綾子はそれを初めからお見通しで、
きちんと言葉にして指摘していた。
思いだすと恥ずかしい。
潤平は真摯にレッスンへ向き合うようになった。
バレエというものが何なのかを知りたい。
指導を素直に受け止めてゆく。
潤平の変化は教師にも伝わっている。
教師は休憩中も潤平に注意を繰り返し、修正してゆく。
期待されている証拠だ。
思い上がりは上達の敵
潤平は素直なやつだ。
あるいみ優等生である。
クラス終了後、教師に質問する。
「バレエって誰が作ったんですか？」
ひたむきに知識をほしがっているから、
周りのクラスメートもいろいろ教えてくれる。
潤平はひたすら感心。
「おめー･･･すげーな･･･」
「基礎にも一番気ィ遣って練習してるしな･･･」
心境の変化で、クラスメートの見え方も変わっている。
寿（ことぶき）は勉強家で努力家だ。
教養が見る目を養う。
寿に誘われ、潤平は再びバレエ公演を見に行った。
都と一緒にはじめてバレエを観たときはガン寝だった。
学芸会か！つまらん。
面白かったのは主役のみ、という感想。
ところが今回は違う。
圧倒される。
主役はなめらかでエレガント。
全員が細部まで圧倒的に完璧な踊り。
思わず立ち上がって「ブラボー」を叫んでしまう。
るおうも一緒に叫ぶ。
感動の共有。
知識があってはじめて理解できる素晴らしさだった。
この舞台に出られるかも
公演の帰りに寿が教えてくれた。
生川のスペシャル・スチューデントがこの舞台に出ていた、と。
サマークラスで選ばれれば、スペシャル・スチューデントになれる。
そうすれば、今夜のような舞台に参加できるかもしれない。
生ピアノどころか生オケで踊れるのだ！
潤平どうする？
生川綾子に認められるために
サマークラスに飛び入りしたはずが
気持ちが揺れはじめる。