るおうの受難
るおうは朝からおまじないを唱えている。
「二 プーハ ニ ペラー」「ク チョールトゥ」
全部がうまくいくロシアのおまじないである。
意味はわからない。
都の裏切り
るおうは都と潤平がキスするところをきのう見てしまった。
そのままひとりで帰ってきた。
電車に乗れなかったくせに。
今朝は潤平が迎えに来る前に、ひとりで来た。
潤平はあっけらかんと話しかけてくる。
るおうは何も言わない。
もくもくと柔軟体操をする。
練習方法を否定される
るおうは、話しかけてくる潤平に柔軟をやらせる。
ハードなやつだ。
自分はまいにち祖母からやらされていた。
潤平はもともと柔らかいくせに訓練が足りない。
しかし生川綾子はいって柔軟をやめさせる。
他社が外から力をくわえると怪我をしかねない。
この古いやり方は危険だ。
綾子はなおも続ける。
あなたのお母さんがバレエから逃げ出したのは
正しい指導者につけなかったからではないか？
るおうの受けた訓練への否定である。
「僕は怪我もしてないし･･･」
「僕より踊れる生徒なんて･･･いないだろ」
激しく反論する。
いつものるおうならありえない。
母の再婚
昼休憩中、海咲が話しかけてくる。
世間話に見せかけた精神攻撃である。
きょうびシューズに画鋲をいれたりとか
みえみえのダサい仕打ちはしないのだ。
海咲は、はるかに洗練されている。
スマホでインスタを見せてきた。
るおうの母親が弟と幸せに暮らしている画像だ。
るおうは動けない
午後のレッスンがはじまる。
ひとりずつ順番に踊り、綾子からの講評を受けるのだ。
順番が来てピアノが鳴っても、るおうは動けない。
おまじないを唱え続けるだけだ。
「二 プーハ ニ ペラー」「ク チョールトゥ」
このおまじないは母親から教わったのだ。
必ず迎えに来ると母親は約束した。
会いたくなったらこのおまじないを唱えるように、
必ず応えるから、と。
「二 プーハ ニ ペラー」
「ク チョールトゥ」
唱え続けるが母は来ない。
動かないるおうに、綾子は退場を命じる。