異様なバレエ
るおうは砂浜で踊る。
異様なオーラを振りまきながら。
都と潤平の踊りがきっかけだった。
ずっと我慢していたトラウマが爆発し
それがバレエの形になって渦巻いている。
いまのるおうは感情の塊。憎しみの塊。
誰も自分にかえって来てくれない。
いままでずっと。これからも永遠に。
都も、母も、祖母も自分を離れていく。
おもわず通行人が足を止めて見入るような
グロテスクなオーラが放射されている。
おばあ様の反応
ひざ掛けを頭に巻いた姿は
まるで処刑前の囚人のようだ。
みずから布を引き剥がし、
両手ではためかせながら跳躍する。
おばあ様は、端正なバレエしか認めなかった。
ダンサーの感情があふれて
表現を乱すことを厳しく否定していた。
その古典的な価値観を厳格に仕込まれたはずの
るおうから感情があふれ出している。
「あなたの意に反し歪(いびつ)な僕を!」
「見てよ!」
「見て!!」
「僕を」
「見ろ!!!」
音楽が止まる。
かかっていたのは相変わらず「白鳥の湖」だった。
誰も動けない。
異常なダンスだった。
すごいんだけど、どう判断していいか分からないバレエだ。
おばあ様が立ち上がった。
拍手している。
「まづるちゃんはほんとにじょうずね~」
干物のような目。
るおうのことなど見ていない。
祖母の意識はもはやこの世にない。
これからも自分の夢だけを見続けるだろう。
るおうではなく、母親の真鶴がかなえるはずの夢を。
都の帰還
るおうに居場所がない。
あらためて祖母から思い知らされ、
るおうは海にしゃがみこんで泣く。
こんなのほっておけない。
都は海に入りるおうを抱きしめる。
「ク チョールトゥ」
すべてがうまくいくおまじないを唱える。
都はるおうのところにかえって来た。
「るおうは、ずっと、わたしの夢です」
今も、これからもずっと側で手伝わせてほしい。
潤平は目の前でお姫様を失った。
「ここからは家族のことだから・・・」と
千鶴から排除される。
たしかに、五代家の因縁に立ち入ることはできない。
「これからも自分の直感を信じなさい」
「あなたは、それで、正しいから」
砂浜を走り出す潤平。
初恋を失ってひとりになった。
だがこれは解放でもある。