潤平の出演決定
「潤平、踊ろっか」
と紅乃の一言で
バジル役の出演がきまった。
潤平は大喜びだ。
バック転して躍り上がる。
「大丈夫大丈夫」
「伝えたいもんが強い奴じゃないと
バレエ興味無い子どもなんて
巻き込めませんよ!!」
潤平はそうとうな前向きだ。
クラッシックバレエは
そういうもんではない。
正しい動きを身につけて
はじめてスタートラインに立てる。
個人の思いなど雑音である。
それでも潤平はひるまない。
正しさと思いを両立させる。
「GINYAさんからは
バッシバシ伝わりましたよ!」
「俺はあっちがいい!」
銀也を目指す。
控え室でも高揚がとまらない。
「紅乃さん」「紅乃さーん」
パートナーを何度も連呼し、
あげくキスしたりする。
天の回想
潤平とは対照的に、天は落ち込む。
モチベーションが下がりっぱなしだ。
踊りたくない。
もう辞めよう。
最後にバレエはじめた頃からの
思い出を回想しはじめる。
バレエを習うきっかけは
かわいい女の子だった。
転校してきたお洒落な子。
その娘が習っていた教室に入った。
バレエは楽しかった。
きれいなお姉さんたちに可愛がられるし、
運動神経いいから褒められるし、
コンクールも発表会も好きだった。
舞台の上ではみんな
俺の恋人だった。
観ている人すべて
俺を好きになるのを感じる。
バレエを習うきっかけになった
あの娘はキスしてくれた。
誤算
留学してからおかしくなった。
自分がまだ下手なのに気づいた。
努力が義務に変わった。
海外の団を落ちまくった。
生川に戻ったが上にあがれない。
「プリンシパルは永遠に無理ねぇ」
綾子さんに宣言された。
そして子どもバレエである。
きつい地方公演だ。
主役になれる人間は別格だ。
自分はそうではない。
バレエは俺のことを
愛してくれなかった。
気づいたからには終わらせないと。
下手くそすぎる
潤平と紅乃のステージを観て
天は我にかえる。
「・・・は!?」
「ちょっと待てっ・・・」
潤平は下手だ。
信じがたいほどひどい。
「どっこいしょー」
かけ声が聞こえそうな
ぎこちないサポートである。
「信じられない・・・」
思わずつぶやいた天の背中を
ワッシー先輩が押す。
「じゃあお前出ろよ」
紅乃と踊りたい。
天は舞台に出て
潤平たちと絡み始める。