替え玉出場で競技ダンス
たたらは三笠宮杯に出場している。
日本一の大きな大会だ。
いきなり初舞台。
仙石に強要された。
「兵藤のかわりにしずくと踊ってこい」
兵藤の燕尾服を着せられ
髪をワックスで固められ
鏡で自分の姿を見たとき
たたらは踊りたいと思ってしまった。
「しずくと踊りたくないのか?」
「他の男の相手と踊れる機会なんてな・・・」
「この先二度とないぞ」
踊りたいに決まっている。
たたらはうかうかとフロアに出てしまった。
ハイホバーとは何?
大きな会場だ。
大勢の観客が見ている。
ついこないだワルツの練習を始めたばかりで
いきなり踊れるわけがない。
燕尾服はサイズが合わない。
兵藤は足が長すぎる。
先日、痛感したばかりだ。
大会場での歓声。
緊張で足下がゆらゆらする。
音楽が始まった。
回りのカップルたちが踊りはじめる。
しずくは、たたらに気合いを入れた。
「音楽が鳴ったら踊る!」
反射的に踊りはじめる。
何も考えられない。
兵藤の踊りを必死で思い出して
なぞりはじめた。
たたらは兵藤の振り付けを覚えている。
とちゅうまで・・・
そこから先がわからない。
たたらは停まった。
停まったまま震えている。
見守るたまきが、ハッとする。
「もしかして・・・“ハイホバー”・・・!?”」
ハイホバーとは、長時間静止して
姿勢の美しさとバランスを見せる技だ。
ハイホバーなわけない。
どうしていいか分からずに
停まっているだけだ。
ずっと停まっている訳にもいかないので
たたらは即興で踊りはじめた。
覚えている技を即興でつなげる。
見ているほうがはらはらする。
替え玉出場は違反
とうぜんのことながら、
替え玉出場は違反である。
「6ヶ月以上1年未満の競技会出場停止とする」
とされている。
なにより狭い世界のことだから
こんなことをしたら悪い評判が残る。
あとあと言われる。
兵藤もたたらも。
こんなこと絶対してはいけない。
ふつうは。
だけど応援したくなる。
おおきなステージに放り込まれて
足が震える経験は誰でもある。
自分の圧倒的な実力不足を
かみしめるときがある。
「なんでこんなバカなことを始めてしまったのか?」
と、おのれの愚かさと準備不足を呪う。
だから、必死で乗り切ろうとするたたらに
励まされるのだ。
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