しずくが会場をかっさらう
スローフォックストロットがはじまり
しずくに火がついた。
ゆったりと滑らかな動き。
ガジュのダンスシューズが
親指の爪の先まで伸びて床を押す。
体重移動とバランス感覚を極限までコントロールし、
「直線的で継続的な流動美」を見せつける。
と思うと、ワルツのようなダイナミズムを
振り付けに盛り込む。
ガジュとしずくペアは、レベルがまったく違う。
「地力の差」だ。
ふたりは、体全身を使い
動きを完全に統御できる。
高難易振り付けをすでに体に染みこませ
滑らかにくり出すことができる。
そしてふたりのコミュニケーション。
しずくは、ガジュの身体能力を引き出し
今までなかったようなレベルへ登らせた。
「完全に一人勝ちしやがった」
仙石がつぶやく。
審査員が見とれてペンを落としてしまった。
観客からは猛烈な拍手が起こる。
たたらまでがあっけにとられる。
フロアにしずくの高揚が伝播する。
清春がそわそわと足を動かしてしまう。
「おどりたい」
ケガをしているくせに
体を伸ばして、頭の中でダンスが始まる。
天平杯いよいよ最終のクイックステップ
スローフォックストロットが終わり
まこがたたらへ声をかける。
「最後の種目くらいは・・・」
「思い切り踊りましょう」
まこは素に戻っている。
詰め物が飛んで行ってしまい
胸が「つるぺた」に戻っている。
もうそんなの関係ない。
ここまで必死で闘ってきた。
懸命に練習した。
圧倒的な実力差をうめるため
頭をしぼって試行錯誤してきた。
予選を勝ちぬき、準決勝を勝ち抜き
決勝を3種目おどった。
あとひとつ。
次のクイックステップで全てが終わる。
いま自分たちにある全てを使って踊り抜こう。
圧倒的な努力のすえに
まこは現在の自分を受け入れられるようになっている。
いまある自分で戦い抜く。
たたらはフロアの向こうにいる仙石をみる。
体力配分を考えて踊りをセーブしたくない。
全力で踊らせて欲しい。
「ぶ」「ち」「か」「ま」「せ!」
O.K.がでた!
たたらも素に戻っている。
踊ることが楽しい。
このクイックステップが終わることが
名残惜しくてたまらない。
たたらとまこがまっすぐに見つめ合う。
「まこちゃんそのドレス似合ってるね」
いつものたたらなら絶対いえない言葉が
ごく自然に口から出てくる。
素直な気持ちだ。
「このときを待っていた・・・・!」
ふたりはフロアに飛び出す。
そういう振り付けなのだ。
最高にかっこいい振り付け。
仙石が、たたらとまこのために
特別に用意したアイデアだ。
会場の視線をいっきに集める。
反対側から飛び出したガジュとしずくが
素晴らしい対応をする。
ホールドを一瞬といてたたら達との衝突を避けた。
スーパーテクニックである。
あっというまに観客を持って行ってしまった。
たたらにならできる。
クイックステップがとんでもなく盛り上がっていく。