無断でグランプリに出場
たたらは静岡に来た。
グランプリin静岡に出場する。
「冗談でしょ」と
マリサ先生には止められていたが
気持ちを抑えられずきてしまった。
無断エントリーだ。
清春・しずくペアと戦いたい。
自分は待たれている。
そう思い込んでいる。
静岡の会場は大きい、天井が高い。
部門も多い。
たたらたちの予選は午後3時から始まる。
グランプリ・スタンダード一次予選。
はじめての上級戦である。
参加者の雰囲気がまったくことなる。
「レベルの高い人たちは
体の鍛え方そのものがまるで違うんだ」
一目瞭然。
清春もガジュもいない
たたらは出場者リストを見て愕然とする。
清春たちがいない。
ガジュたちもいない。
「ドイツで試合があるから
そっちに出るって言ってたよ」
千夏はとっくの昔に知っていた。
アホである。
たたらは思い込みが激しい。
「そういうことは
もっと早く言ってよね!」
聞き逃していただけなんじゃないのか?
「何のために僕は静岡まで来たの?」
知らんわ。
たたらが勝手に盛り上がって
千夏を振り回していた。
自分しか見えていない。
予選のワルツがはじまる
千夏が先導する。
「たたら行くよ!」
ショックから冷めぬまま
たたらは予選のフロアに向かう。
「ま”っで心の準備が」
心の準備ができていない。
今さらである。
同じフロアに釘宮たちがいる。
明たちもいる。
当然だ。
みんなグランプリに出るべく
準備を重ねてきた人々ではないか。
たたらは不意を突かれてあせる。
こんなところで会うとは思えなかった。
甘い。
イメトレが足りない。
グランプリに勝つのは
釘宮や明に勝つということだ。
たたらは踊りはじめた。
うろたえたままだ。
たたらの意識の変化
すでに音楽がなって
体は勝手に踊っている。
マリサ先生のアドバイスが
うわごとのように頭の中を流れる。
いま踊っているのは、ワルツ。
ワルツの注意点は・・・
・踏み込みは素早く、
引き寄せは緩やかに
・スイングは振り子のように、
緩急をつけてダイナミックに
スピード感とボリュームを意識して
・足の引き寄せは静かに、正確に、美しく
無意識のうちに体の動きをチェックしている。
テストの答え合わせをするように
自らの動きを検算し、調整している。
精密にカウントする。
レッスンでさんざん注意され
指先まで気を配るようになった。
感覚が磨かれている。
がむしゃらに踊っていた頃とは違う。
千夏も変わってきた
ワルツの最中に、明たちとニアミスした。
千夏は明と目が合う。
たたらはぞっとする。
「嫌な予感がする」
明がからむと千夏は暴走する。
たたらを置き去りにして
勝手に踊りはじめる。
ノービス戦の悪夢がよみがえる。
破綻の予感。
だが千夏は変わらなかった。
明とは何事もなかったように
踊り終えた。
端然とおじぎする。
たたらはあっけに取られる。
千夏もまた進化しているのだ。
「どうしてグランプリになんか出て来てるのー?」
明に挑発されてもゆるがない。
「たたらが『出る』って言ったから来たんだよ」
たたらについていく。
たたらは自分のリーダーだから。
ダンスのときは、たたらに集中する。
「ちーちゃんが僕のことを見てくれてる」
大きな収穫である。