海咲と響のつくる別世界
テレビカメラの前でリハーサルが続いている。
海咲と響のパドドゥはすばらしい。
夢のような世界が完成している。
114話のトビラ絵は点描だ。
むかしの少女マンガのようにロマンチック。
背景に大きく文様が流れ、
群舞のバレリーナたちが円を描いてまわる。
右手前に大写しでほほえむふたり。
海咲の王子と、響のオーロラ姫だ。
響は画面中央で右を向き
濃いマツゲから海咲を見入っている。
幸福感。
ラッパ吹きたちが後ろで影絵となって
ファンファーレを鳴らす。
結婚のシーンだ。
まごう事なき本物のバレエ。
「うわー・・・正しくて気持ちいい」
潤平は心を奪われる。
「なのに新鮮!」
パドドゥを踊り終えても
そのままヴァリエーションをやるよう
銀也が指示する。
修正指示がまったく出ない。
そのまま最後まで踊り通した。
銀也が高笑いする。
踊り終えるとスタッフから拍手がわき起こった。
響の異変
海咲は響を振り返る。
素晴らしい踊りだった。
とんでもない高みに到達した。
そう思って響に話しかけようとするが
言葉が停まってしまう。
響に異変が生じている。
響は真っ黒な陰になって固まっている。
海咲は話を続けることができず、
響の横顔を見つめている。
何がおこった?
こんなに踊れたあとなのに
なぜ真っ黒になるのか?
何かまたトラウマでも掘り起こしてしまったのか?
海咲は繊細な男だ。
響を異変がただならないものだと感じ取った。
それとも響の体に故障でも起こったのか?
撮影がストップされ、緊急会議が開かれた。
生川の先生が集まってパソコンを見つめている。
ただ事ではない雰囲気がただよう。
主役は海咲たちに決定、とか
そんなおめでたい流れではない。
何かのアクシデントが発生したのだ。
響と海咲には勝ってほしいわ。
読んでるこっちは、海咲を応援したくなっている。
失意の潤平
今日のレッスンは終了だ。
男子クラスのロッカー室はにぎやかだ。
海咲はいない。
バンダ中村先生に呼び出されている。
潤平は無言だ。
クラスメートに話かけられても答えない。
黙ったまま部屋を出て行ったしまった。
さっきは夏姫にあんな顔をさせてしまった。
響たちに遅れをとった。
夏姫には「姫」でいさせてやりたい。
夏姫は常に選ばれていないといけない。
特別である。
潤平は特訓するつもりだ。
建物を出ると夏姫がいる。
夏姫はスタジオの鍵を持ち出している。
夏姫も練習するつもりだった。
ふたりとも同じことを考えていた。
生川では練習場の使用時間がかぎられているから
こっそり隠れて練習する。
今からでも挽回するのだ。