清春が「肩甲骨はがし」をした意図
たたらは思うように踊れない。
清春から「肩甲骨はがし」のみならず、
股関節、膝まわりのストレッチをされたせいで
関節の可動域が広がりすぎる。
だが初めての動きに、
たたらは対応できていない。
背中がユルユルでホールドが保てない。
カウントが早い。
「肩甲骨はがし」が上手くはまれば
瞬発力とスピードが上がり
たたら達の長所がパワーアップするはずだった。
たたら組の美点とは
たたら達の長所はダイナミックな動きだ。
背が低いかわりに上半身をのばし、
肩甲骨から上を大きくしならせる。
さらに動きに緩急をつけて
3次元的に大きくみせる。
仙石が以前やってみせた方法だ。
見るものの平衡感覚を奪うような手法。
小柄なのに大きく見える。
いずれこういうやり方が必要になると
仙石に言われた方法だ。
体を自由自在に広げるというゴールに向けて
マリサ先生は基礎訓練を施しはじめたところだ。
とはいえ、まだまだ初歩にすぎない。
完成にはほど遠い。
マリサ先生はなぜ合宿にたたらを呼んだか?
マリサ先生が合宿に呼んだ生徒は
釘宮組とたたら組だけだった。
このふた組は、正反対の踊りをする。
釘宮は長身で体が硬い。
目指すダンスはスタンダード。
王道で美の根源。
お手本のような美しさ。
マリサ先生に教わる前、
釘宮は古い考えの先生についていた。
純然たるオールドスタイル。
「キレイな選手だったんだ」
釘宮の体の硬さが、自然なしなりや
姿勢の美しさ・清潔感を生み出す。
また長身ゆえに、周りと同じ動きをしても
自然と存在感が出る。
手足が長いのだ。
そのうえ完璧で体のコントロールも手に入れた。
「静と動」
釘宮組はタンゴすら気高く踊る。
もともとの素質が、たたらと釘宮でまったく異なるのだ。
そこから目指すべきゴールも正反対になった。
マリサ先生は、相反するふた組を
同じフロアで踊らせることで
社交ダンスの可能性を推し量っている。
教え子の指導を通して
競技ダンスの伝統と進化を引き出している。
あとはたたらが進化するだけだ。
たたらはいまだにコントロールを取り戻せない。
千夏が本気でイラついている。
この大会で釘宮に勝たないと
清春たちと同じステージにいけないのだ。
本番中にどうにかきっかけをつかんで
釘宮の対極にあるダンスを踊りたい。
ヒントはある。
明がつぶやく。
「千夏はあんなもんじゃない」
千夏の力を解放することが
たたら組進化の鍵になるのだ。