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【ムラサキ ネタバレ】1巻5話『この男は怪物』

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いよいよ翔之助が踊りはじめる。
第5話はほぼダンスシーンのみ。
50ページ以上もつづく。
創作ダンスで埋め尽くされた回だ。

ダンスは裸体で見せるもの

周囲が静まりかえる中で
翔之助は服をぬぎはじめた。
学ランをぬぎ、
ベルトを外し、ズボンをぬぐ。
Tシャツもぬぐ。
ほぼ全裸である。

ブーメランパンツのような
ふんどしのような得体の知れない下着のみ。

翔之介の体は美しい。
しなやかで筋肉質だ。
腹筋、胸筋、大腿筋・・・。
大小の筋肉がくっきりとみてとれる。

「コォォォォォ」
空手の息吹(いぶき)を思わせる
深い呼吸を翔之助がはじめた。
千葉真一のモノマネをする関根勤と同じだ。
はっきりと呼吸がきこえる。

息吹じたいが日本古来の呼吸法で
神道の流れをくむ動作だ。
翔之助のルーツは神道にある。
土地に伝えられた土着の伝統だ。

翔之助の体が生きている。
呼吸で取り込まれた酸素が
しみこんでいくのがわかる。
筋肉が緊張し弛緩するのがわかる。
血液が体内を流れていくのが感じられる。

ムラサキは翔之助から目がはなせない。
生きて動く人体は美しい。
ダンスは極限まで人の美しさを見せつけるもの。
衣服はジャマだ。
芸術作品には裸が多い。
「人体は美しいからだわ」
翔之助の体をみてムラサキは
心の底から納得した。

視線-君に捧げる踊り

天地創造の時はこうだったのかもしれない。
翔之介が空中を舞う。
足の下には海がある。
波が盛り上がって崩れる。
空中には雲と水蒸気がほとばしる。
ムラサキの体に空気の渦がまきつく。

翔之助はムラサキを見つめる。
ムラサキの目は大きく見開く。
翔之助は目をはなさない。
山の神々にささげてきた踊りを
いまは目の前のムラサキにささげる。
「わたしを見てる」
ムラサキのほほが上気する。
くちびるがうるんで小さくとがる。

ムラサキも翔之助をみつめる。
おたがいの視線が結びあったまま
踊りが高まっていく。
回転し、体をねじり、手をさしのべながら
翔之助はつねにムラサキを見ている。

翔之助のエネルギーが波となって
ムラサキをつつみ、運ぼうとしている。
大きな質量をもった膨大な力だ。
ソラの予想をはるかに超えた気を発している。

ソラの記憶にある翔之助は美しかった。
おさない翔之助は繊細。
優雅で軽やかだった。
目のまえにいる踊り手とは似ても似つかない。
いまの翔之助がおこなうのは
「原始的で呪術的な理性を奪う儀式」だ

エネルギーが学校全体をおおう

翔之助の発するエネルギーの渦に
いつのまにかソラも巻き込まれている。
ソラだけではない。
ヨガ部の主将もとりこまれはじめている。
たまたま近くにいただけの
ヨガ部メンバーまでが渦のなかにいる。

校舎の中にいる生徒たちも異変を感じた。
尋常ではないモノが中庭で動いている。
翔之助は台風の目になって
周りの空間を吸い込み始めている。

翔之助はぴたりと動きをとめる。
まっくろなかたまりになって
信じられないポーズをとった。
石かなにか無機物になったかのようだ。

クライマックスへ高まる翔之助

一瞬の空白のあと翔之助は
クライマックスへ向かう。
翔之助の体にはもはや輪郭がない。
真っ黒なインクの流れで描かれる。

インクが吹きつけ、吹きおろし、
大きな水流になり
海になってムラサキを飲み込む。
何をどう判断していいかわからない。
これが何なのかわからない。

「言葉にできない」
「言葉がおいつかない」
巨大なものがうずまいている。
音と光の区別さえあいまいになる。
触覚さえも。

溶けて
流れていく
混ざりあう
これは
誰の身体?

自分と他社の区別すらつかなくなってしまう。
巨大なものはムラサキに流れ込んでくる。
ムラサキはおぼれている。

もはや翔之助も形がなくなっている。
ポロックの抽象絵画のように
絵具をぶちまけた痕跡として描かれている。

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