黒島にふられた
潤平たちは卒業式のあとカラオケに行った。
潤平は楽しく盛り上がれるタイプ。
好きな歌をさんざん歌ってさわいだあげく、
あっさりひとりだけ帰ってしまう。
バレエがある。
黒島がついてきて
エレベーター前でプレゼントを渡す。
手編みのマフラーだ。
重い。
受験勉強のかたわら編み物なんかして。
潤平とふたりで初詣に行くつもりだった。
黒島は怒っている。
悲しんでもいる。
「いらないなら自分で捨ててね」
「バカにしないでよね」
「ほんとにサヨーナラ」
「偶然会っても話しかけないでね」
いちいち刺すような言い方をする。
潤平は何も言えないまま
エレベーターで送り出されてしまった。
伝えたいことはいろいろあるような気もするが
まとまらない。
ふられて落ち込む潤平
黒島の怒りはこういうことか?
「あたしを好きじゃなかったのか?」
「ただの気休めでつきあったのか?」
潤平はほんとうは都のほうを好きなんじゃないか?
がらにもなく潤平は反省する。
潤平の中ではバレエと都が一体化している。
どんなに追いかけても自分のものにならない。
それでもどうしても手に入れたくて
必死で走り回った。
黒島は、「ふつうの生活」の象徴だったのか。
いつもすぐそばにいてすぐに手に入るもの。
バレエに手が届かなかったときの保険として
キープしておきたかっただけかもしれん。
「めっちゃスタイルいいし」
「話しやすいし」
「おもしろいし・・・」
黒島は、楽しい暮らしの代表みたいな女子だった。
潤平は心に迷いがある。
都がダメだったら黒島がいるじゃん。
バレエがダメだったら高校にいきゃいいじゃん。
決心しきれないグダグダさが自分の根底にあった。
歩きながら気づいてしまった。
潤平は黒島のマフラーを捨てられない。
首に巻いたまま更衣室に向かう。
夏姫に見つめられて赤面
その格好で夏姫と会ってしまう。
夏姫はバレエひとすじだ。
ほかのものはなにもいらない。
不要なものは切り捨てる。
夏樹と目が合うと
潤平は自分の不純さを思い知らされる。
「俺の半端で」
「自分本位で」
「付き合わなきゃよかった」
「踏みにじって憎まれてしまった」
弱気な心を見透かされている。
バレエに生きると言いながら
ふた股をかけて関係者を傷つけてしまった。
夏姫は何も言わないが
非難しているように感じられる。
潤平はトイレの中で頭をかかえて
おのれの肚の据わらなさを恥じる。
コンテのおひろめ会で欠点がでる
コンテの新作を踊れる気がしない。
自分という人間に自信がない。
潤平はフラれて気にネガティブになってしまった。
根本的なところで人間性を否定された気がする。
外ではみんなが潤平を待っている。
いったいどんな踊りを見せるのか期待している。
トイレの個室で必死に気持ちを切り替える。
おひろめ会はうまくいった。
踊り終わると拍手があがった。
海咲が嫉妬するほどの見事なでき。
バンダ中村先生にも銀也にも好印象だ。
踊りのテーマは「道」
力強いイメージ。
強い意志。
自ら道を切り開いていく覚悟。
岩井先生だけが潤平の弱点を見抜いている。
「・・・小器用の見栄っ張りめ・・・」
このままではいけない。
潤平の踊りは根本的な欠陥を抱えている。
8月9日発売
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