対決から和解へ
バレヱ部の初公演は好評だった。
大林組のコールドたちが楽しそうだ。
宝生の踊りををほめたたえ、
桔平の頑張りを認めている。
鉄棒の大回転にブラック・スワンの64回転。
女装から悪魔姿への早着替え、
さらには王子にまで変身して
尋常ではないパフォーマンスを見せたのは
桔平のほうだが・・・。
片付け終わった会場で
バレヱ部メンバーたちと大林組が向かいあう。
いおりはいさぎよい。
すなおに敗北を認めた。
「無駄にハイレベルな技術」と
「機動性の高い舞台転換」
「唯我独尊のピアニズム」
すべてが一体になって観客を魅了する。
宝生の戦いは常識の枠を
はるかに超えて高いところにあった。
根本にはバレエに対する愛がある。
いおりはそう感じ取った。
大林組のバレヱ部加入
大林組のふたりに梨鈴がバレヱ部加入を提案。
宝生もふたりの入部を歓迎する。
バレヱ部は新入部員を加え、
ダンサー5名となった。
次回公演も「白鳥の湖」を計画している。
配役会議の段階で宝生たちは
すでに原作をはみ出しはじめた。
王子が3人でオーロラ姫のキスを奪い合うドラマ・・・
自由な発想と、活発な議論が破天荒な舞台を予感させる。
こんどは大ホールを借りて、
本格的な公演をおこなう。
桔平の母がプロデューサーとなり
お金と手間をしっかりかけて準備する。
まさかのバレエ・ギャグマンガで考えさせられた
「技術や美しさを競い合うのではなく
踊る喜びを仲間と分かち合いたい」
宝生の理念は、たんなる平和主義や
芸術至上の理想論ではない。
宝生は、勝負の基準を
はるか遠いところに置いている。
「バレエ界」での階級づけを
きゅうくつに感じているのだ。
バレエにはもっと力があると信じている。
もっと広い世界で戦える。
宝生が戦う相手は、お教室のライバルや
バレエ・コンクールの参加者たちではない。
今の時代、娯楽はバレエだけではない。
スポーツもゲームも
映画も漫画もある。
バレエ公演のチケットは高い。
いろいろあるけど、まあ1万円くらいか。
1万円あれば、いろんなことができる。
美味しいものを食べてもいいし、
映画もたくさん見られるし、
マンガもゲームソフトも買える。
バレエを演ずるプロならば
この1万円で公演のチケットを買ってもらって
お客さんが大満足するだけのものを見せなければならない。
それがプロのクオリティだ。
仲間内だけで芸術を語って、
自分の世界を閉じてしまうのは
あまりにもったいない。
目を開いてたくさん勉強しよう。