アキの不調
鈴木はタンゴに夢中だ。
杉木から教えられたことをパートナーのアキと試してみたい。
ところがアキの反応が良くない。
ぼんやりしている。
集中できていない感じだ。
実際に組んで身体を動かしても心ここにあらず。
杉木に教えられたとおり、鈴木は「焦らし」をいれてみる。
タンゴの深いホールドから、長く静止。
たっぷり間をとってから、女性の足の間に腿をいれ大きく踏み出す。
アキは鈴木に反応できない。
「男についていけるようスタンバっとけって言ったろ!!」
杉木とやったように再現できない。
鈴木はいらだちながらもサクサクとレッスンを進める。
さっぱりした性格だ。
そのうえタンゴに夢中なのだ。
杉木から教わったことを誰かに伝えたくてたまらない。
「タンゴってさ、色っぽさじゃルンバに引けを取らないって思うんだ」
鈴木は説明しながら興奮する。
「『タンゴは音を嗅ぐ』んだってよ」
杉木とのタンゴ体験が身体に思い出されてくる。
「『下に棚引くようによどみ流れる音をあなたが吸い上げて一体となり、それを僕と繋がっている部位から注ぎ込みマス』」
ポエムのような美しい表現だ。
杉木の言葉を、鈴木は一字一句おぼえている。
愛の告白を反すうするのと同じ。
杉木の声と表情がよみがえり、鈴木は赤くなっている。
アキはついていけない。
アキの欠席
アキはトラブルを抱えている。
恋人「よし君」との関係だ。
10ダンスをはじめてから、すれ違うことが多くなった。
練習に時間をとられる。
体力も気力も消費する。
ダンサーとして上に行きたい。
同時に恋人も大事にしたい。
両方を器用にこなすことができない。
翌日アキはスタジオにこなかった。
「調子悪そうだったし、大丈夫かな・・・」
生徒が心配する。
「なんか顔色っていうか、雰囲気っていうか・・・」
休みの連絡はメールで来た。
鈴木が携帯を鳴らしてもアキはでない。
鈴木は心配だ。
アキの異変に気づいてやれなかった。
今さらながらの後悔。
鈴木にとって、アキは妹のような存在だ。
キューバ時代からの幼なじみ。
ひとりで杉木のスタジオへ向かいながら、アキのことが気にかかってしかたない。
アキ号泣
杉木ダンススクールに鈴木が到着。
アキが現れた。
「・・・遅れて・・・すみません」
目と頬にあざ。
顔にテープを貼っている。
恋人「よし君」に殴られたのだ。
そのせいで外に出られなかった。
一同は即座にアドバイスした。
「別れろ!」(鈴木)
「別れなさい!」(杉木)
「チョン切っちゃえ!」(房子)
アキは号泣する。
全員やさしい。
鈴木はアキをかかえて受け止める。
お兄ちゃんの愛情だ。
ならんで座りアキの話を聴く。
アキは「愛情深い、いい子」だ。
男に尽くしすぎて捨てられる。
鈴木にとってだいじな戦友で家族だ
代わりはいない。
不思議な関係だ。
アキとは家族のように一緒に育った。
付き合ったこともある。
そして今はダンスのパートナーとして長時間ともにすごしている。
鈴木は話の流れで「好きな人ができた」と話してしまう。
自分の大事な気持ちを分け合いたいのだ。
アル登場
成田空港でアルがニーノに電話している。
アルはラテンダンスの世界王者。
ニーノはダンス界の大物だ。
話題は鈴木のこと。
「あいついいよ。すごく」
アルは鈴木を見直した。
「次のオープン戦楽しみだわ」
鈴木も楽しみにしている。
20日後、プレミアムジャパンオープン戦がある。
いつも3位だが今回は1位をとる。
アルを倒して世界王者になる。
アキは、理解のない恋人と別れて吹っ切れた。
「今の俺たちならどこまでも目指せる」