オルガ先生のグループレッスン
サシュコーのアピールをきっかけに、クラスはレッスンに戻った。
男女混合の公開グループレッスンだ。
大原田さんがカメラを回す。
中村先生と寿(ことぶき)も見学。
オルガはレッスン生を追いこんでいく。
「Long leg!」
「Spot the corner!」
「Quick!」
「Accent!」
ピアニストが演奏でノセていく。
「ハラショー!ボーイズ!」
サシュコーは潤平への敵愾心を隠さない。
つられて男子どものあいだに競争心がひろがる。
負けない。
誰よりも高く力強くジャンプしたい。
見学者のいる壁際ギリギリまですごいスピードで移動してくる。
マジでこわい。
「すごい迫力ですね近くで見ると」
大原田さんが気圧されてイスから滑り落ちる。
「馬みたい・・・」
馬はかっこいい。
筋肉のかたまりが動くのが美しい。
「ここにいる男子は特に身体がでかいタイプが集まっているので・・・」
中村先生が同意する。
前もって予想していても、男子たちが近づいてくると圧倒される。
多原田さんは、ふたたびイスからのけぞった。
オルガ先生は大喜びだ。
「バッチバチねボーイズ」
笑っている。
潤平とサシュコーはあいかわらずにらみ合っている。
潤平の身体はきゃしゃ
あらためて海外の男子の中に入ってみると潤平は細くみえる。
日本にいるときは「筋肉ゴリラ」と言われていたのに・・・
だいたい日本人は小柄なのだ。
世界的な活躍を目指すなら、体格で負けないよう考える必要がある。
潤平よりジャンプが高いやつがいる。
潤平よりたくさん回るやつもいる。
世界レベルで見れば「良い素材」はいくらでも見つかるものだ。
生川でリヒャルト先生が言っていたことが、あらためてニューヨークで実感できる。
そんな世界で潤平が勝負するためにはどうすればいいか?
「そりゃあ芸術性でしょ」寿は言う。
さらに一歩踏み込んだ意見を中村先生が言う。
「それも含めて・・・個人の、人間性だと、俺は思う」
人間性という観点が大事だとすると、潤平のコンテは良かったのではないか。
自分の内面に踏み込んで、岩井先生の振り付けを解釈しようと努力している。
オルガ先生の手の動き
競い合うようにレッスンしたせいで、潤平は息を切らしている。
しかしとんでもないものを見てしまった。
オルガ先生がレッスン性に腕の動きをやってみせたのだ。
その手本がありえないほど美しい。
潤平は、何もかも忘れてみいってしまう。
レッスンが終了すると、潤平は大原田さんの首をつかんで引っ張る。
「通訳してっっ」
潤平の全身が汗でびちゃびちゃだ。
大原田さんが濡れるのも構わず潤平は声を上げる。
どうしても聴きたいことがある。
「あの・・・指先からこう・・・蒸発していってしまうような腕の動きが・・・」
「どうやったらあれを手に入れられるんでしょうか?」
けっきょく「基礎の徹底」
オルガ先生の回答はシンプルだ。
あれは「コツ」でわかるものではない。
「幼い頃から徹底的にたたき込まないとダメなの」
「すぐに習得できるものではない」
オルガ先生の考えは本質的だ。
「それ以前にあなたはもっと自分の能力、身体を使い切る必要があるわ」
「それは腕を今より美しく使うことに繋がる」
ぼう大な技術が統合されて美しい動きができあがるのだ。
潤平は食い下がる。
オルガ先生が教えてくれたのは、ごく小さな練習方法。
指先にペンをはさむことだ。
生川でも教えるやりかた。
千鶴先生もおなじ方法を教えていた。
それでも潤平は、はりきって指先にペンをはさむ。
あまりに美しい手本を見てしまったからだ。
小さい子がやるような、ささやかな練習方法だとしても、あの動きにつながる訓練だとしたらぜったいに価値がある。
海外にまできてあらためて基礎の重要性を実感させられる。
サシュコーと潤平の差
オルガ先生とサシュコーが語り合っている。
話題は潤平のことだ。
バレエをはじめてまだ2年しかたっていない。
だから潤平にはバレエの基礎がしみついていない。
サシュコーから見ると決定的な弱みだ。
良い感性を持っているのに残念なことだ。
潤平を圧倒し、YAGPで優勝する。
そしてニコラスにバレエを師事する。
サシュコーはおのれの目標を宣言する。