いきなりはじまるダンスバトル
コンテストがおわって通常モード。
カボくんはいつものように部活に行く。
男子はひとり。
階段脇で着替えながらワクワクしている。
なぜだかわからないが調子がいい。
「今日の俺はちょっといいかもしれないから」
ニコニコしながら防音トビラをあける。
ところが部室の雰囲気がいつもとちがう。
部屋の真ん中で恩ちゃんと伊折先輩が対面。
部員たちはまわりを取り囲んで座っている。
全員だまって、音楽だけが鳴っている。
ダンスバトルだ。
恩ちゃん VS. 伊折先輩。
誰も事情を知らない。
まるで対戦ゲームみたいにいきなり戦いがはじまる。
ふたりのスペックはこんな感じ。
宮地恩:ダンス歴10年、
ジャンル:ポッピン、ロッキン、ヒップホップ、ワッキン
厳島伊折:ダンス歴5年、
ジャンル:ハウス、ブレイキン
音楽はFingadelicのBeat Ya 2 Def(Don't Stop)
ダンスバトルの理由
なぜバトルがはじまったのか、ほかの部員は理由を知らない。
伊折先輩が勝ったら、一凛高校がチームバトルに出ることになる?
恩ちゃんが勝ったら、伊折先輩が部活に復帰する?
それとも伊折が次の部長になる?
「絶対イヤ!!!」
2年生の先輩が拒絶する。
伊折は嫌われているらしい。
バトルの結果しだいで、恩ちゃんと伊折が付き合うことになる?
とんでもない説が出て、ギャラリーが盛り上がる。
「それだけはマジでいやです」
伊折はそうとう嫌われている。
伊折先輩の先攻
「やっっっっば」
「カッケー」
伊折先輩のダンスはハウス。
脱力と自由落下で身体を思いのままにコントロールする。
暗闇の中に浮かび上がるシューズの軌跡が美しい。
黒づくめの服装で靴だけが白い。
伊折のファッションにはたぶん意味がある。
自分の動きが美しく見える服装なのだ。
バレリーナがタイツとチュチュをはくように、伊折はフリースとスニーカーを身につける。
手の先と足の先が流れ、見るものの視界に残像を残す。
恩ちゃんの後攻「ヒット」
恩ちゃんの後攻。
武術家のようだ。
身体の中から衝撃波のようなものが飛び出す。
マンガがではなく現実。
エネルギーのようなものがみえる。
恩ちゃんがつかうのは「ヒット」という技術。
筋肉の弛緩と緊張を一瞬のうちに後退させ、見る者の視界に衝撃波の印象をあたえる。
「えっエグッ」
「すげすげ身体どうなってんの」
いきなり見せられても何がどうなっているのか見当もつかない。
ふだんはニコニコして、やさしい。
コミュニケーション能力もリーダーシップにも長けている恩ちゃんが意外な面を見せた。
恩ちゃんのメインジャンルはポッピン(poppin')。
むしろこっちの方が得意だった。
闘志むき出しのダンスにカボくんがドキドキする。
伊折先輩はうれしそうだ。
いつものやる気のなさそうなひょうひょうとした雰囲気とはちがう。
バトルが本当に好きなのだ。
恩ちゃんとやりあえるのが嬉しくてたまらない。