都大会優勝の効果
二学期の始業式で、たたらたちはダンスを披露。
学校の体育館で衣装をつけてタンゴをおどった。
派手な衣装と、厳しい顔つきはインパクト大だ。
たたらたちは学校で存在感をはなつようになった。
(千夏は劇的にモテはじめる)
何者かになりたい、というたたらの願いが達成された。
小笠原ダンススタジオへ里帰り
たたら達は小笠原ダンススタジオに来ている。
半地下のフロアを、3人組がのぞいている。
社交ダンス教室の見学希望者たちだ。
千夏が声をかけて連れてきた。
まっすぐに同級生たちを見つめかえす仙石と、
あわてるたたら。
ダンススクールになつかしい顔があつまった。
小笠原メンバーの再結成だ。
たまきさんがいる。
千鶴さんがいて、千夏の頭をなでる。
たまきさんと馬場それからたたらの3人で
見学者の体験レッスンすることになった。
仁保まで来ている。
たたらは、はじめて教える側に立つ。
仙石にならった記憶がおもいおこされる。
わずか1年前のことだ。
1年間でたたらはすっかり変わった。
いまは、にっこり笑って初対面の相手と向かい合うことができる。
レッスンが終わってたたらと千夏はお辞儀をして帰っていく。
「また遊びに来ます!」
ふたりはマリサ先生のレッスンへ行かねばならない。
小笠原ダンススタジオをきれいに卒業した。
たたらは千夏と晴れやかに笑う。
昔たたらをいじめていた同級生がとおりすがって
ふたりをみつける。
たたらはもう、その視線に気づきもしない。
マリサ先生の都大会評価
マリサ先生はたたら達を拍手で迎えてくれた。
「初優勝おめでとう!」
すでに清春から、たたらたちの様子を聴いていた。
「カップルの一体感」が勝敗を分けた。
というのが清春のコメントだ。
高性能、大馬力の千夏のおかげで
たたらは上の次元へひきあげられた。
たたらと千夏とのあいだに信頼関係がある。
たたらは、千夏にコミュニケーション能力を
徹底的にきたえられたと言っていい。
釘宮は考え続ける
ロッカールームへ釘宮もはいってきた。
釘宮は先にレッスンを受けていたのだろう。
まだダンスを続けているのだ。
あいかわらず怖い。
目がほそい。
瞳がちいさい。
「良かったなあ。あの試合で優勝できて」
釘宮は考え続けている。
「きっと富士田クンは俺とは違うんだろうな」
たたらは若くて可能性にあふれている。
都大会に優勝して、将来には何の気がかりもない。
たたらは、千夏と共調して踊る。
釘宮は、井戸川をリードして踊る。
「俺は長いことずっと男一人で
何とかしようと思ってやってきたからね」
ふたり分の責任とプレッシャーを引き受けて
釘宮は踊ってきた。昔風の男のやり方である。
その結果、心も体も故障してしまった。
釘宮は後ろも見ずにたたらに手を振って
ロッカールームを出ていく。
たたらの体に異変
とにかくダンスが楽しい。
レッスンを思い起こしながら
たたらはひとりで家に帰る。
街灯の光の中でたたらは違和感をおぼえた。
えたいの知れない細かいものが視界をただよう。
おもわず振り払うが暗闇のなかには何もない。
たたらの目に異変、飛蚊症か?
飛蚊症は原因不明のことが多い。
老化とか網膜剥離の後遺症だったりする。
たたらはまだ若いのに、悩まされることがあるだろうか?
飛蚊症だけでは競技ダンスに影響しないだろう。
たとえば長期間の入院が必要となるような
重大な障害にはなりえない。
網膜剥離の前兆で飛蚊症になっているのだろうか。
競技ダンスでいくつか衝突事故にあっているから
当たりどころが悪くて目に障害が出る可能性もある。
目の痛みがあり、さらに片目が見えなくなったりすれば、
視野がせばまる。
釘宮は交通事故で怪我をして挫折を経験した。
全盛期の動きがまったくできない。
社交ダンスの理想を追いかけるなど不可能になった。
たたらもこれから不幸がかさなるのか?
不穏な流れになってきた。
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