サンクトペテルブルグから尼崎まで
るおうは、いらついていた。
1位を取ったのに、そんなことはどうでもいい。
潤平が気になるのだ。
取材陣の写真撮影どころではない。
ワガノワ・プリで勝ったのは当然だ。
実力が正当に評価されただけ。
コンクール後のガラすらわずらわしい。
YAGPに出て潤平に勝ちたかった。
飛行機の便を見つけてもらい、すぐに尼崎へ向かう。
いまからでもYAGPに参戦するつもりだ。
会場は尼崎の「あましんアルカイックホール」。
サンクトペテルブルグからあまりに遠い。
雰囲気もぜんぜんちがう。
しかもJRでなく、阪神の尼崎だ。
阪神尼崎駅周辺はすごいところですよ。
よくいえば地元感あふれる場所。
(行ってみればわかる)
飛行機を乗り継ぎ、電車を乗り継ぎ
会場の受付に駆け込んだ。
・・・僕をエントリーさせろ。
潤平の踊りが気になる。
あいつはなんだか腹が立つ。
こうして、エントリーはできなかったが、
審査の休憩時間中に踊ることになったのだ。
るおうの怒り
るおうは怒っている。
潤平の踊りを見たからだ。
休憩時間に踊ったあと、そのままステージから走ってきた。
潤平の手首をつかんでるおうはマジギレする。
こんなっ・・・下手くそ。
お前、一年間、生川で何をしてたんだ。
前よりつまらなくなった。
もしかしてお前のほうが
バレエの真実に近いんじゃないかって感じる瞬間が・・・
・・・気のせいだったみたいだ。
ライバル除外。
お前は問題外だ。
そう宣言して、るおうは行ってしまった。
ワガノワ・バレエ・アカデミーとの
面談があるから行かなければならない。
ワガノワに入学して、ボリショイかマリインスキーに入団して
いまから5年後にプリンシパルになる。
ロシアでバレエの真実をつかむ。
潤平は衝撃を受けた。
モヤモヤした気持ちの中心をはっきりと刺された。
体をじかに切断されるような痛みを感じる。