天平杯の演技終了
決勝のクイックステップが終わった。
最終種目は異常なまでの盛り上がり。
激しい手拍子がおこった。
たたらは気持ちだけで踊る。
体が限界を超えてしまいながら
顔は笑っている。
ガジュも笑顔。
たたらにつられて笑ってしまった。
しかし演技が終わるともう立っていられない。
壁に寄りかかってあえいでいる。
たたらにあおられて全力で踊ったのだ。
今回の天平杯は史上最高の盛り上がりを見せた。
たたらの感情がボールルームに伝播し
全員をまきこんでしまった。
天平杯決勝の採点
決勝の審査は「順位方式」で行われる。
審査員がおのおの
全組を種目ごとに順位づけする。
より多くの一位を獲得した者が一位になる。
多数決だ。
あるいみ客観的。
スポーツとしてはっきりと勝ち負けが出る。
「本気で勝つ気かや」
ガジュがきく。
「そうだよ!!」
「100万年早ぇべ!!!」
たたらは最高の踊りをしたが
判定は客観的で無情だ。
天平杯の結果発表
優勝はガジュとしずくだ。
満場一致の一位。
全種目でずば抜けた力をしめした。
当然の結果だ。
祝福の拍手と声援のなか
ガジュ達はフロアに進みお辞儀する。
たたら組は呼ばれない。
2位ではない。
3位でもない。
最下位の7位だ。
一番最後に呼び出された。
悔しい。
悔しくて涙が出る。
だが同時に納得もしている。
「僕は試合中ずっと思ってました」
「自分はなんて下手くそなんだろう」
「けど少しでも拍手をもらえたことが嬉しくて」
「ほんのちょっとだけ『勝てるんじゃないか』
って思っちゃってました」
たたらの負けだ。
完敗。
悔しい気持ちを抱えて
笑顔でステージに向かう。
気持ちをきりかえて
優勝のガジュに祝福の握手をする。
ボールルームクイーン賞
天平杯では「ボールルームクイーン賞」なるものがある。
女子だけの個人賞だ。
「フロアでいちばん輝いていた女性選手」に贈られる。
ペアでの勝負には負けたが、
この賞を取ればたたらの勝ちだ。
後出し。いまさらである。
「ボールルームクイーン賞」獲得はまこだ。
たたらは、まこを魅せることに
特化した踊りをした。
ダンサーの本能である自己顕示欲をおさえ
貴重な成果をなしとげた。
「花と額縁」の額縁に徹したのだ。
実力でガジュに完敗したが、勝負に勝った。
これでガジュとしずくはパートナー解消だ。
「おうち帰るべ」
「また二人で頑張ろう?」
まこがガジュを連れていく。
つよい女である。
おどおどしているように見えながら
兄をとりもどしてしまった。