アッセイさんのダンス
コンテストの前に「ジャッジムーブ」がある。
審査員アッセイさんがダンスを見せてくれるのだ。
すごい人の踊りを間近で見るのは
カボくんにとって初めての経験である。
「ダンス歴20年の大御所ダンサー」の踊りはどんなのか・・
ダンスシーンで描画のタッチが一変する。
大きなスピーカーと心臓の鼓動のコマにはさまれて、アッセイさんの身体がうねる。
静止画でとらえきれない動きが、かすれた線で暗示される。
なめらかな軌跡が補助線でイメージに残る。
アッセイさんの身体からのぼる水蒸気と照明があいまって
ステージ上にオーラがたちのぼる。
カボくんはびっくりする。
「なんか・・・すげえ・・・!!」
肩や胸が別の生き物みたいに動いて
粘ってるようなうねってるような質感が音の質感と合ってて
知ってる曲なのに何倍もカッコ良く聴こえる。
曲はNASのI Can(YouTube)
若者をはげます歌詞。
「I know I can なりたいものになれる」
「もし努力すれば自分が将来いたい場所に行ける」
井折先輩とコンテスト会場で再会
ジャッジムーブのあと、カボくんは井折先輩に再会した。
ダンスバトルをした二年生だ。
「よ カボじゃん」
向こうから声をかけてきた。
どもりながらあいさつするカボくんをワンダさんがフォローする。
「カボくんは言葉がでにくいんです」
井折先輩はなにか察したらしい。
「いまいろんなことが納得行ったわ。俺のなかで」
「お前は俺とは違って人間関係うまくやってけそうだな」
カボくんはダンス部になじんでいっている。
井折先輩からはそう見えるらしい。
どもりのせいでカボくんの人間関係は限定されていた。
今まで友だちのホトが仲介してくれて
おかげで学校になじんでいた。
ホトの交友関係がほぼカボくんの交友関係でもあった。
高校に入ってからはちがう。
はじめてホトとはべつの、自分の社会をもった。
思い返してみれば、ワンダさんのおかげだ。
ワンダさんへ伝えたい思い
「ワンダさんに・・・ちゃんとお礼を」
思い立ったら、カボくんはワンダさんを探す。
カボくんは素直でまっすぐだ。
ワンダさんは靴をぬいでびょんびょん跳んでいる。
なぜかはだしで床をだんだん蹴って、
そのうえ手のひらで足裏を叩いている。
「なんか・・・足の裏がふわふわしちゃって・・・」
緊張しているのだ。
カボくんはワンダさんの方をつかんで目をのぞき込む。
言葉が出てこない。
言いたいことがたくさんある。
(俺たちならきっと大丈夫)
しかし見つめあうだけでワンダさんには通じているようだ。
「ありがとうカボくん」