鈴木と父
朝だ。
トーキョーの空が青い。
杉木先生が混乱している一方で、鈴木も眠れない夜を過ごした。
鈴木先生の方は自宅に帰った。
疲れて目が赤い。
起床のアラームをきっかけにリビングに移動する。
リビングでは鈴木父が朝食をとっている。
父子で同居している。
父はすっかり年老いている。
食事はスーパーのお惣菜を中心にした和食。
テレビをつけようとするが、リモコンの表記が見えない。
老眼だ。
リビングにはいった鈴木の異変に気づいて父が聞いてくる。
「お前、寝た?」
「おい、無理はするべき時だけにしとけ」
自分の老化を体感している父は、体調管理に気を使う。
いつまでも若くいられるわけではない。
時間をだいじに使わなければならない。
杉木と鈴木のミーティング
夜の銀座をぬけて、鈴木は杉木ダンススクールに向かった。
今夜はレッスンはしない。
杉木先生と鈴木先生のミーティング。
1対1の話し合いだ。
議題は今後のふたりの関係をどうするか。
どちらも沈んだ表情だ。
破局前の恋人たちのよう。
離婚の話し合いでもしているかのような雰囲気だ。
杉木先生は明晰だ。
自分の思いを言葉にする。
「僕は鈴木先生のすべてが欲しいんです」
「あなたのダンス、神秘性、運命、表情、身体の隅々、肉も骨も、遺伝子や魂さえ、全部」
詩人のような言葉。
鈴木先生は対照的だ。
「俺のはそんなまどろっこしい話じゃない」
杉木の手首をつかみ、肩をおさえてひざまづかせた。
それからベルトを外し、ズボンを下げる。
「今朝家に戻って何したかわかる?」
「アンタでヌいたの」
「俺はアンタを抱きたいって毎日思うようになってる」
鈴木先生は一晩中そんなことをしていたのだ。
睡眠も取らずに。
鈴木父の言うとおりだ。
「おい、無理はするべき時だけにしとけ」
鈴木は精力が強すぎる。
「セーシ口から逆噴射しそー」(第3話)
といっていただけのことはある。
恋愛感情も直接的だ。
本能的に行動する。
「俺のことが『欲しい』?」
「なら咥えて見せてくれよ。キング」
しかし杉木先生は口を開かない。
プライドが拒否する。
首を振って顔をそむけ断固拒否だ。
舌打ち。
鈴木は杉木を床に押し倒しシャツを脱がす。
アーニーの言葉が、杉木の頭によみがえる。
「想像したことあるか?捕食される側に立つことを」
杉木は自分が受け身になる可能性を考えたことがなかった。
こんな状況はプライドが許さない。
杉木は身体を入れ替えて、逆に鈴木を抑え込んだ。
「鈴木先生だってこうされたら固まるクセに」
自分の体を相手にあたえて関係を受け入れることができない。
お互いに受け身側に立てないのだ。
鈴木は結論を言う。
「アンタの望みは何したって叶わない」
杉木も身をもって納得してしまった。
自分の望むような結末は得られない。
どうなれば満足なのか、ハッピーエンドが見つけられない。
「この執着は恋愛じゃない」
ふたりともトップにたつ男だ。
だからこそ相手の魅力を理解し、相手を欲している。
そして自分を相手に譲り渡すことがぜったいできない。
今夜のミーティングの結論をまとめる。
「僕たちはお終いですか?」
「ああ、終わりだ」
悲しい結論だが仕方ない。
チャンピオンであろうとするなら、最後までゆずることは不可能。
越えられない壁がある。
「ねえ、アンタを愛してる」
27話へ 29話へ
|