アッセイさんの不満
審査委員のアッセイさんは「コンテスト」というものに違和感を感じている。
ダンスがスポーツ化してしまった。
まじめな優等生が一生懸命練習して成績をあげるもの。
健全な趣味だ。
高校生活のなかで打ち込む部活にすぎない。
成果を上げるために努力し、積み重ねる。
だがあくまで趣味の範疇にとどまる。
進学や就職が近づくとあっさりダンスを辞めてしまう。
健全な趣味だからだ。
優秀な努力家であればあるほど、長い人生を考慮してかしこい選択をする。
学生時代が終わればダンスは「良き思い出」でしかない。
踊りにそういう価値観が出てしまう。
学生たちは「勝つこと」「そろえること」への情熱はある。
だがアッセイさんが見たいのは別のものだ。
ダンスそのものへの執念。
ダンスなしで生きられないかのような思いだ。
カボ君には執念がある
カボ君の踊りは良い。
存在感がある。
別に複雑なことや高度なことをしているわけじゃない。
基本ステップを入れただけで迫力がある。
「なんか普段の2倍くらい大きく見えるんだけど・・・!」
観客席が湧く。
井折先輩がカボ君を見つめる。
「音でぶん殴れ。カボ」
カボ君には執念がある。
どもりの劣等感に悩まされてきた。
言いたいことが言えなかった。
ダンスでなら感じていることが伝わる。
カボ君にはダンスしかないのだ。
「ビョーキだがショーガイだかわからんけど、お前はなぜか反撃しない」
誰にも伝えられなかった感情が、カボ君の心に溜まっている。
ダンスでなら気持ちを外へ出すことができる。
カボ君とワンダさんの見せ場
カボ君たちは必死で練習してきた。
長時間の反復練習。
ステージにむけてしっかりとフリを体に入れてある。
井折先輩とのダンス対決での敗北も生きている。
ダンスバトルでは、自分の見せたがりな気持ちが先行して踊りが死んでしまった。
かっこいい動きをしようとして動きを早取りし、音楽を殺してしまった。
あの失敗は絶対に繰り返さない。
ワンダさんとカボくんはギターの音にピタリとシンクロする。
鳴っている音に従うだけで奇跡のような時間が現れるのだ。
ワンダさんの足の間からカボくんが滑り出す。
ふたりで踊る姿に、アッセイさんがおもわず引き込まれた。
「まずい・・・」
上からの照明がまるで、天上の光のようだ。
他のメンバーたちがカボ君たちをかこむ。
「冷静に・・・審査しなきゃいけないのに・・・」
ステージに光が満ちて、熱が上がる。
人影が激しく動いてアッセイさんが目をみはった。
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