伊折先輩のひたむきな表情
伊折先輩がふだんとはぜんぜんちがう顔を見せる。
ただひたすらに一生懸命だ。
いつもは、なんというかやる気がなさそうな感じ。
脱力して、世の中のことなんてどうでも良さそうだ。
それが、恩ちゃんとのバトルが盛り上がると変わった。
たのしそうだ。
見物にまじっているカボくんを見つけ、身振りでメッセージをおくる。
「目潰し?いや『ちゃんと見とけ』てこと?」
真っ直ぐに視線を送られて、カボくんはとまどう。
曲が替わった。
freddie gibbsのhow we do
「細かめで速い曲」
ラップが主体で単調とも言える。
テンポに身をゆだねて、心の底におりていくようなボーカル。
欲情もとまどいもありのままに口にする。
理性で縛りつけられている無意識をリズムが開放する。
伊折先輩のブレイキン
音楽は単調だが、伊折の振りはダイナミックだ。
歩幅をおおきくとって身体をおとす。
両腕で身体をささえ、足を上に回転する。
思いもつかない激しい動き。
それでいて音楽とピッタリ合っている。
「おォ!」
ギャラリーがどよめく。
「伊折くんてあんなアクロバットできたんだ」
「ムーブ激しいのにめっちゃ音聴けんのやば!」
見ているカボくんも思わず力がはいる。
恩ちゃんもブレイキン
恩ちゃんの番だ。
身体を落とし、円を描いてステップをふむ。
恩ちゃんもブレイキンだ。
「フットワークだけでバリ音とってる」
低い位置で細かな足の動き。
体重移動がダイナミック。
恩ちゃんの身体は床と平行だ。
カボくんはもう言葉が出ない。
「知らないものが・・・」
「次から次へと・・・」
目を開いて、顔を上気させながらダンスバトルを見ている。
ダンスの対話だ。
恩ちゃんと伊折先輩は「高め合っている」
おたがい相手の動きにインスパイアされて、その上に新しい発想を上書きする。
「レベルの高いダンサー同士のやり合いって、こんなにも高みに上がるものなのか」
恩ちゃんも伊折先輩も楽しそうだ。
言葉がなくてもこんなにコミュニケーションができる。
「いいな」
「俺も早くあんなふうになりたい」
新キャラ「壁ちゃん」登場
ダンスバトルから、いきなり別シーンへ飛ぶ。
どこかのホームセンターのレジだ。
客のババアが怒っている。
「申し訳ありませんでした」
あやまるレジ係。
バイトの高校生だ。
新キャラ「壁ちゃん」。
壁谷楽(かべたにがく)登場。
どことなくワンダさんに似ている。
小柄で目が大きい。
壁ちゃんがバイトからあがるとダンス仲間がたむろしている。
みんなで動画を見ているのだ。
一凜高校のコンテスト動画。
「ヤバい奴がいる」と伊折にきいてみんなでチェック中である。
恩ちゃんとワンダさんが真っ先に注目を集める。
しかし壁ちゃんが指さすのはカボくんだ。
「この人バトルでてきてほしいな」
「俺こういう恵まれている人と戦いたい」
壁ちゃんから見れば、カボくんは恵まれているらしい。
単に大柄というのもあるだろうが、それだけではないのか?
身体の動きにも才能を見いだしている。