カボくんの番
カボくんはウケている。
「アップロック」で観客の意表をついて
そのままダンスへ引き込んでしまう。
淀みのない流れ。
盛り上がったところで壁ちゃんが入ってくる。
カボくんの流れを引き継いで壁ちゃんは踊る。
壁ちゃんは動きが大きい。
派手だ。
教え勝負で伊折を負かす気まんまん。
「俺はまだ忘れてないから」
3年前の因縁をまだ引きずっている。
過去の因縁
壁ちゃんがここまでこだわる原因は何なのか?
自分が好きなダンサーをけなされたことだ。
壁ちゃんに影響を与えたネリさん。
ネリさんのダンスにはスタイルがある。
まとまりの大きな技で音楽全体をとらえる。
一つ一つの音に細かく合わせるわけではないから
「音聴けてない」と指摘されることもあるが、
ピントをあわせるポイントが違うだけなのだ。
ネリさんは壁ちゃんの理解者でもある。
細かいポイントをあえて捨てて、大きな効果をねらう。
「ふわっとした音のイメージみたいな・・・」
けして音楽を聴いていないわけではない。
伊折はネリさんにバトルで勝った。
それはいい。
だがそのあと伊折は言ってしまった。
「あの人あんまダンスわかってないでしょ」
悪気はぜんぜんない。
伊折は思っていることを素直に言ってしまう。
ネリさん→壁ちゃんのスタイルの全否定に聞こえる。
壁ちゃんは徹底的に勝つ気だった。
どんな音楽がなるかは知っている。
自分の前フリとして、カボくんにセットを仕込んだ。
そのうえで存分に大技を披露した。
カボくんと伊折の反省会
けっきょくカボくん+壁ちゃんが圧倒した。
なんだかもやもやした感じが残る結果だが。
翌日、伊折とカボくんは学校で話す。
「壁にセット組まされたろ」
カボくんは即興ではなく、
教えられた振り付けをそのまま踊った。
伊折からするとそれは「ダンス」ではない。
伊折にとってダンスは、音に反応するオモチャになること。
あらかじめ決められた振り付けを再現するのは
ストリートダンスとは真逆だ。
伊折のダンス観とは正反対のやり方で
壁ちゃんは、伊折たちを負かした。
ただし伊折の価値観も最近かわった。
恩ちゃんの指導するダンス部を見たせいだ。
「ストリートダンスの一番大事な根っこの部分を自然にやらせてる」
ダンス部の活動もやり方次第で意味がある。
それを見せられて伊折はダンス部に帰ってきた。
カボくんの吃音カード
伊折とカボくんの会話は濃厚。
はっきりとした違和感と意見があって
でも言葉にするのは難しい内容。
ダンスの記憶を共有するからどうにか理解できる感情だ。
カボくんは唐突にスマホを取り出して伊折に見せる。
画面には「きつおんカード」の表示。
「わたしは言葉をスムーズに話せないことがあります」と書いてある。
カボくんは伊折先輩におすすめする。
言いたいことが言えない。
それでもカボくんは伝えようとする意志がある。
伊折先輩も恩ちゃんに気持ちを伝えたらいい。