ブランコからのレッスン前に、まず舞台を見る
翌日、オルガ先生のクラスにブランコがやってきた。
レッスン中だが潤平はすぐにブランコを発見。
腕を組んで潤平を観ている。
気分が高揚する。
昼間のからレッスン室で会うのははじめてだ。
「ほんとに俺の師匠なんだっ・・・」
一段落するとすぐにブランコのそばへ寄った。
潤平はとにかく素直だ。
ブランコの第一声は
「チケット取ったか?何時からだ?」
ジゼル全幕を観ておけ、といったのは
劇場で実際の舞台を見ろという指示だったのだ。
動画ではなかった。
いやでも、バレーのチケットなんて高いのに・・・。
それでも勉強のために観ておく必要がある。
オルガ先生も同じ意味で言っていたのだ。
潤平はすぐにチケットを手配し劇場に向かう。
オルガ先生が車で送ってくれる。
車内はブランコとオルガ先生、潤平の3人だ。
劇場でしか学べないもの
現場に行って体験しないとわからないことがある。
画面をとおすと、切り落とされてしまうもの。
照明・音楽・衣装、どれも劇場で体験するものは違う。
さらに加えて出演者の情熱がある。
全員の気持ちが集まって、ひとつの舞台が出来上がる。
「五感全てで体感して心が動くんだ」
潤平は無心に感動する。
帰りの車の中で、潤平はおしゃべりだ。
感動を誰かと分かち合いたい。
しかもバレエの師匠がいっしょなのだ
現役ダンサーのわだかまり
潤平は話し続ける。
ウィリ役がジャンプしたのに着地の音がしなかった。
花が落ちる音はしたのに。
体重がない本当の精霊みたいだった。
音がしないことが、舞台では夢のような効果をもたらす。
オルガ先生の反応は冷たい。
「トウシューズ、音がならないように加工してるだけよ」
手品の種をあかすように、分析してしまう。
ブランコがオルガ先生をなだめるかのような話しぶりになる。
「思い入れのある役を他のダンサーが踊るのを手放しで楽しめない」
舞台にたいする気持ちの強さが、強烈な嫉妬心になってオルガ先生を動かしている。
ブランコもオルガ先生の気持ちがよくわかる。
自分自身が舞台に戻りたくて戻れなくて、酒に溺れているからだ。
ふたたび深夜のレッスン
オルガ先生の車はアパートに帰らない。
着いたのはレッスン室だ。
「これから6日間だけ少し無理を許すわ。」
潤平はブランコと深夜レッスンをするのだ。
パーティまでとにかく時間がない。
来週には、アルブレヒトを踊る。
ゲイリーがパトロンになってくれなければ
潤平は日本に帰らなければならない。
ブランコはアルコールにもどってしまう。
潤平はやる気満々だ。
ぶつくさ言うブランコのことを全然気にしない。
「あーはやく上手くなってブランコに嫉妬されたい♡」
「歯ぎしりしながら家出などしてください☆」
勝手なやつだ。
頭の中で「村尾潤平伝説」をすすめている。
むかしやった「1晩で100回とおす」をやろう。
潤平の提案を、ブランコは却下する。
過去にブランコは無駄に無理してチャンスを逃し続けた。
「過度なレッスンに、まちがったストレッチ・・・」
おなじあやまちは繰り返すつもりはない。
日本公演のときも舞台に立てなかった。
だからこそ、子供時代の潤平と出会ったわけだが・・・。
ブランコは潤平に条件をつける。
「お前が、50歳まで第一線で踊ったら嫉妬してやるよ」
ブランコが教育者としての顔を見せた。
潤平には、自分より良い道を進ませたい。
師弟の会話
はじめてブランコのバレエを見た記憶が
潤平を今でも動かしている。
「俺はあの場に、あなたの意志を継ぐために居合わせた気がする」
ブランコに観てもらいながら潤平は踊りはじめた。
ダメ出しはすぐに出る。
出だしでとめられて、全く先へ進めない。
一晩中おどったあげく朝になった。
けっきょく寝落ちである。
<iframe style="width:120px;height:240px;" marginwidth="0" marginheight="0" scrolling="no" frameborder="0" src="//rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=000000&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=fukunori760b-22&language=ja_JP&o=9&p=8&l=as4&m=amazon&f=ifr&ref=as_ss_li_til&asins=B08M3RZ75M&linkId=472e7929b577fb0bf75ce6012317236e"></iframe>