目隠しを外さない壁ちゃん
壁ちゃんは攻撃的だ。
目隠ししたまま最後まで踊りとおした。
圧倒的なウケをとる。
そのまま目隠しを外さない。
カボくんのダンスを見ない、という宣言だ。
壁ちゃんには自信がある。
自分がカボくんに負けるわけがない。
冷静に観察を積み上げて判断した根拠のある自信だ。
カボくんはバトルの経験が少ない。
ダンス歴じたいが短い。
持っている技の数が少ない。
自然に技を編みだすほどの天才なんていない。
そしてこの選曲。
難しい勝負だ。
現在のカボくんの実力で踊りきれるとは思えない。
壁ちゃんは黒マスクを目に当てたまま
カボくんのターン終了を待つ。
しかしなぜかカボくんはウケている。
壁ちゃんには見えないが観客がもりあがっている。
予想外の展開が起こっているらしい。
壁ちゃんの音ハメダンス
再び壁ちゃんのターンが回ってきた。
曲はケミカルブラザーズのブロック ロッキンビート(YouTube)
良い曲だ。
だが壁ちゃんは踊りださない。
ゆっくり歩き回るだけだ。
動きながら壁ちゃんは計算し続けている。
壁ちゃんはこの曲を知っている。
盛り上げるために使えるポイントが来るのだ。
観客を一気に掴むためにそのポイントが来るのを待っている。
待ちながら審査員を観察している。
ジャッジの心証を得るためにどういう動きをするか計画を練るのだ。
まるで面接対策である。
壁ちゃんがえらんだのはワンハンドラビット。
片手で逆立ちしたまま音楽にはめてみせた。
選びぬいたタイミングで畳み掛ける。
観客の心をわしづかみだ。
今までの静止はド派手なパフォーマンスを盛り上げるための伏線だった。
まだまだ。
壁ちゃんは審査員を観察している。
「ここからはあのセットでいくか」
壁ちゃんはしっかり対策しているのだ。
バトルの終わりに畳み掛けるための応対を準備している。
計算され尽くした実用的なセット。
受験や就活だったら文句なしの合格だ。
「ぜひうちに来てほしい」
「ここで内定をだす」
「あす彼に契約書を渡してすぐサインを貰いなさい」
外資系の社長ならそう言うだろう。
絶対に勝つため、壁ちゃんは準備を整えている。
本番でも冷静に状況を観察し、最善の受け答えを提供する。
ダンスでなら負けない。
言い切るために積み重ねてきたものが壁ちゃんにはある。
ちょっと練習したくらいで追いつけるレベルではない。
さあ、カボくんの後攻だ。
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