足の故障におびえる杉木先生
翌朝、杉木先生がタオルで顔を拭いて起きてくると
リビングで母親が待っていた。
杉木先生が病院へ行かなかったことを母親は責める。
体のケアは前もってしておかなければならない。
自分の状態を正確に把握しておき、
しかるべきケアをほどこして踊れるコンディションを整えておく。
杉木先生もわかっているが昨夜はそれどころではなかったのだ。
ついに鈴木と一線をこえてしまった。
杉木先生の冷静さと入念さは母親ゆずりのようだ。
母子の表情は似ている。
杉木先生はシブい大人になるが、
母親の場合はたんにきついババアだ。
杉木先生はきっちり身支度をととのえて電車に乗った。
病院へ向かうのだ。
自分は遠からず踊れなくなる。
鈴木を一流に引き上げるプロジェクトを立ち上げた理由のひとつは
杉木先生自身が自らの限界を意識するようになったことだろう。
杉木先生は「万年2位の男」
すべてを兼ね備えながらも世界チャンピオンになることができない。
関係ない・・・
一位を圧倒する実力を見せつければいいだけのこと・・・
そう言い聞かせながら長い年月がたった。
それなのに体のほうが今こわれていこうとしている
杉木先生には鈴木がうらやましいのだ。
あふれるエネルギーと無邪気な感性。
車で言うと、けたちがいにパワフルなエンジンだ。
精密な調整を加えればどこまでも早く遠くへ行ける。
鈴木は恋にゆらぐ
鈴木先生のほうは自分の教室でレッスンしている。
教えながら思い出すのは杉木先生のことばかり。
昨夜、思いを告白してしまってすっきりした。
ほっとすると同時に不安だ。
生徒にレッスンしながらも杉木先生のイメージを追いかけている。
目の前のレッスン生と杉木先生の体格を比較してしまう。
「ちゃんとアイツを抱きしめときゃ良かった」
果てしなく後悔も湧いてくる。
もともと無邪気な鈴木先生らしからぬ表情が浮かんでいる。
ふたたび4人でのプライベートレッスン
教室で教え終わると鈴木先生とパートナーのアキは、杉木先生のスタジオにむかう。
杉木ペアと鈴木ペア、4人での教え合いが続いているのだ。
杉木先生の心境は複雑だ。
医者には運動を止められている。
ヒザ故障の後ろにダンサーとしてのキャリア停止が見えている。
杉木先生はダンスを手放すことができない。
同じように鈴木を手放すこともできない。
鈴木はすでに「ダンスの神」になる可能性を見せている。
鈴木と踊れば、杉木先生は神と交流できるかもしれない。
不可能に挑戦するのは得意だ。
それでも杉木先生はためらう。
たちはだかる壁があまりに高い。
男どうしの交流でたどり着けるとは思えない。
マックス乱入
レッスンのあいだじゅう杉木先生はまよう。
鈴木との関係はここでやめるべきではないか?
鈴木は素直に傷ついている。
ついに杉木先生は言ってしまった。
「また夜のレッスンを再開しませんか?」
男どうしの社交ダンス特訓タイムである。
杉木先生のあまりに切ない表情に、アキが照れてしまう。
深夜のスタジオで杉木と鈴木は踊り始めた。
しかし感覚が通じ合わない。
以前みつけた特別な瞬間をさがして2人はあせる。
そこへマックス乱入。
第3の男。
明らかに金持ちである。
いきなりスタジオに入ってきて一方的に話し始める。
杉木先生を気に入って一方的にほめたたえる。
あっけに取られる2人にマックスはようやく自己紹介した。
「僕はマックス。君の初めてのパトロンだ。シンヤ」
|