王子の役柄
『眠りの森の美女』のリハーサルである。
理久が踊る。
銀也から指導が入る。
「恋に落ちてないじゃないか・・・!!」
王子の人格がない、と言う指摘だ
退屈してたら美女を紹介されて、その気になって流れで結婚。
バカみたいだ。
いや、しかし『眠り』とはそういうストーリーなのだ。
全3幕のうち、王子が出るのは2幕から。
3幕は結婚式のみ。
あらすじがあるのは第2幕のみ。
あれよあれよいう間に物語はすすむ。
潤平が銀也につっこむ。
「王子」はストーリーを進めるための人格のないキャラにみえるではないか。
そんな王子役に、踊りかたひとつで説得力と存在感をあたえることがどうしたら可能なのか。
銀也の解釈
銀也の回答はこうだ。
「『運命』だ」
王子は物心つく前から、オーロラの欠落を得体の知れないむなしい思いとして抱いていた。
2幕の登場シーンでは退屈しているわけではない。
オーロラがあらわれる予感で欠落感がふくれあがっているのだ。
そこへリラの精があらわれる。
「運命の予感」
王子はリラの精に心を打ち明ける。
運命の予感で心がはち切れそうだ。
ずっと魂が探していたものが目の前にあらわれる。
オーロラ姫だ。
潤平はそれを知っている。
銀也の説明を潤平はすぐに理解する。
潤平は欠落を知っている。
おさない頃にバレエを手放したことだ。
ニコラス・ブランコの見せてくれた
「宇宙の爆発」を手放してしまった。
「男らしさ」という虚栄心のせいで。
どこかにむなしい思いを引きずっていた。
潤平は「運命の予感」を知っている。
それは都だ。
都が潤平のうえで顔いっぱいに笑っていた。
潤平をバレエの世界に連れて行った。
運命の場所に帰ってきたのだ。
言葉ではなくイメージで潤平は理解した。
これは、そういうことだ。
運命の衝撃をどう表現する?
銀也に問われて、潤平は踊り出す。
いままでになかった表情である。
画がすごくいい。
「深く」
「深く」
「おちて」
「知る」
夏姫とのパドドゥがはじまる。
ようやく運命にであえたふたりだ。
そのとき人間はこんな動きをする。
こんな顔になる。
恋だけでは足りない。
夏姫と恋のパドドゥができた!
しかしまだまだだ。
銀也の指導はつづく。
これは「古典バレエの最高峰」だ。
「お前は動作一つ一ついちいち王子でなくてはならない」
道は遠い。
夏姫はトイレに逃げ出してしまう。
潤平の提示する「運命の予感」にのって思わず踊ってしまった。
自分でも予測のつかない感情に動揺しまくる。
かわいいわ。