天平杯決勝ソロ
たたら・まこペアの決勝がはじまる。
準備したクイックステップではなく
ワルツでのソロ演技だ。
今までのやり方では決勝に勝てない。
以前やった「兵藤の振り付け」が
いまのたたらにはできない。
相手がしずくでなく、まこだと
たたらの「付け焼き刃の下手くそ」感が
めだって出てしまう。
そもそも体力が限界に達し、
清春のイメージに体が追いつけない。
たたら達は作戦を変更する。
最初は基本足形で踊りはじめ
とつぜん技をかます。
兵藤の振り付けにあった
「スロー・アウェイ・オーバー・スウェイ」だ。
技を決めた後はまたベーシックに戻る。
たたら達の結論は、これだ。
「基本足形のなかに適宜、技をはさんでいく」
ボディ・ランゲージに特化したダンス
考えてみれば当然の結論だ。
たたらのいま持っている体力・技術力から
最善の演技をするためにはこうするしかない。
だがやっていることは既に「即興」だ。
客席を観察し、審査員の位置を確認し、
音楽と踊りの自然な流れを配慮しながら
その場で振り付けを構成していく。
いきなり初心者ができることではない。
ガジュが驚く「こいつらがバリエーション・・!?」
客席から拍手が起こる。
よい位置を選び技をアピールできたのだ。
鼻毛石さんがドキドキしている。
たたら達の意図が伝わっている。
とんでもないことをやっているのだ。
たたらの頭の中には、清春のイメージがある。
三笠宮杯でしずくと踊って確認したワルツの振り付けだ。
目の前には今まこがいる。
まこの体の動き、重心移動を感じながら、
記憶にある兵藤の技をはめ込んでいく。
「とんでもない量の情報と気配が飛び交ってるわよ」
マリサも、たたらの挑戦を見守る。
初心者のくせに臨機応変に足形を考えている。
これこそ本来の意味での「リード&フォロー」。
社交ダンスの本質だ。
「花と額縁」を超えて
たたらが臨機応変に徹した結果、異変が起こった。
まこが飛び抜けた存在感を放ちはじめたのだ。
「どうなってる」「あのパートナー」
ガジュもびっくりする。
「あれは本当にまこか?」
「俺の知るあのまこか・・!?」
まこは自己主張のないパートナーだった。
ガジュのリードについてくるだけ。
手応えがない。
どう踊りたいかを聞いても
もじもじそわそわするばかりで、いらつく。
ずっとそうだったのに
たたらのリードで変わった。
「あの女子いいな」
「うまいよな」
客席からため息がもれる。
まこ以上に受け身な、たたらのリードが
まこの美点をいやおうなく強調。していく。
鍛え抜いた体のシルエット。
うつくしい背中のしなり。
「赤城真子はいい選手だ」
今回のガジュとの諍いを通して
まこは精神的にも成長したのだ。
そしてまこは、たたらというリーダーを得た。
たたらは、まこを魅せることに徹した踊りをする。
たたらがもともと持っている感覚に加え
予選・準決勝と戦い抜いて
自分の限界を思い知ったことが大きい。
このままでは勝てない。
自分は初心者だ。
勝ちたかったら、まこの力を使うしかない。
たたらの絶望が、そしてまこの絶望が
追い詰められた状況で
大きな花を開かせた。
「額縁と花」の「花」が
際限なくふくれあがっていく。